1.2つの最高裁判決
(1) Oil States v. Greene’s Energy事件
IPRが合憲であることが確認され、IPRが訴訟に代わる無効手続制度として引き続き存続することが明確となった。
争われたのは、特許権という私有の財産を、行政機関であるUSPTOが司法機関に代わって無効とできるかどうかという点であった。最高裁判所は、特許権はpublic franchise(官庁が特定の会社などに与える公的な特権)であるとし、実質的に、特許権は個人の財産権ではなく、したがって、その権利を与えた行政機関である特許庁が、自己の審査を再検討し、必要ならその訂正をすることができる(無効とすることも含む)とした。
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(2) SAS Institute v. Iancu事件(※Iancuは現USPTO長官の名前)
IPRが申し立てられた請求項のすべてについてPTABが最終決定を下すべきと判断がなされた。すなわち、最高裁は、PTABがIPRを部分的に審理開始の決定を行う(いくつかの請求項について審理開始決定を行い、他の請求項については審理を開始しないという決定をする)権限を排除した。
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[実務への影響]
SAS判決を受けてUSPTOは、審理開始の決定をする場合には、すべての請求項について審理を開始することとし、さらに、請求書で挙げられた全てのchallenge(すべてのクレームについてだけでなく、すべての無効理由)について審理開始の決定を行う方針を発表した。(Guidance on the impact of SAS on AIA trial proceedings)
なお、この方針を盛り込んだPTABプラクティスガイドのアップデート版が2018年8月17日に発表されている。(TRIAL PRACTICE GUIDE UPDATE)
これまでは、例えば、請求項1について、複数の無効理由が挙げられている場合に、いずれか一つ又は複数の無効理由についてのみ審理開始の決定をし、その他については審理開始しないという決定をすることもあったが、今後、そのようなことは無くなる。
これにより、審理開始の決定がなされる場合には、すべての無効理由について何らかの最終決定が下されるため、禁反言の範囲が広がる可能性が生じている。
2.クレーム解釈(Claim construction)に関する規則改正案の発表
USPTOは、PTAB手続きにおけるクレーム解釈を、審査段階と同じBRI(Broadest reasonable interpretation、最も広義で合理的な解釈)ではなく、連邦裁判所やITCと同じフィリップス基準(当業者にとって理解される通常の意味と特許の審査履歴を考慮した解釈)にする規則改正案を2018年5月9日に発表した。(Changes to the Claim Construction Standard for Interpreting Claims in Trial Proceedings Before the Patent Trial and Appeal Board)
改正案に対して多くの企業、団体、法律事務所および個人からの意見が寄せられている。
この基準の変更は、IPRによる特許つぶしが中国企業を利しているというトランプ大統領の判断により、Andrei Iancu氏を特許庁長官に任命したことに由来するようである。Google出身であったMichelle Lee前長官と異なり、Iancu長官はUSPTOのプラクティスをプロパテント側に変えていこうとしているようであり、その一例が今回のクレーム解釈基準の変更であるといわれている。
以上