2020年10月17日、中国全人代常務委員会で、中国専利法の第4次改正が成立しました。本改正の概要および詳細は、以下のようになっています。なお、中国の専利は、日本の特許、実用新案および意匠を含むものに相当します。
1.第4次改正中国専利法の概要
【意匠に関する改正】
① 部分意匠制度が導入されます(第2条)。
② 中国で意匠出願した日から6ヶ月以内、その意匠出願の国内優先権を主張できるようになります(第29条第2項)
③ 意匠権の存続期間は出願日から10年が15年に延長されます(第42条第1項)。
【賠償に関する改正】
① 違法所得による罰金は、違法所得の4倍から5倍に引き上げられ、違法所得がない場合の罰金も、20万元以下から25万元以下に引き上げられます(第68条)。
② 故意の専利権侵害については、事情が重大な場合は、権利者が権利侵害によって被った実際の損失の金額、又は、権利侵害者が権利侵害によって取得した利益の金額の1倍以上5倍以下で賠償額を定めることができるようになります(第71条第1項)。
③ 法定賠償額は、1万元以上100万元以下から3万元以上500万元以下に引き上げられます(第71条第2項)。
【訴訟に関する改正】
① 人民法院は、権利侵害行為に関連する帳簿、資料を提供することを権利侵害者に命じることができると共に、権利侵害者が帳簿などを提供しなかったり、虚偽の帳簿などを提供したりしたとき、権利者の主張などを参考に賠償額を決定できるようになります(第71条第4項)。
② 訴訟を提起する前に、財産保全、一定の行為の実施、又は、一定行為の禁止を命じる措置を講じるように、人民法院へ申請できるようになります(第72条)。
③ 専利権侵害訴訟の時効は2年から3年に延長されます(第74条第2項)。
【発明専利権存続期間の延長】
① 出願から4年、審査請求から3年経過後に専利権が付与された場合、不合理な遅延に対して、存続期間の補填を請求できるようになります(第42条第2項)。
② 新薬の承認に応じた存続期間の補填を請求できるようになりますが、補填期間は最長5年で、承認後の存続期間は14年を超えないことが条件とされます(第42条第3項)。
2.第4次改正中国専利法の詳細
【部分意匠制度(第2条)】
第2条の意匠の定義の中に、「製品の部分的な形状等」が含まれることになりました。現在、中国の部分意匠制度の規定は、改正後の二条のみです。日本の部分意匠との違いは、今後の審査指南などの改定で明らかになると思われます。
なお、昨年の審査指南の改正(施行日:2019年11月1日)では、GUI(Graphical User Interface)に関する意匠登録出願について、更なる要件(GUIに関する意匠登録出願に係る物品の物品名の記載など)が設けられています。
【意匠の国内優先権制度(第29条)】
従来、国内優先権出願は、特許、実用新案で行えましたが、意匠では行えませんでした。
今回、第29条の改正により、中国で最初に意匠出願した日から6ヶ月以内に限り、国内優先権を主張して意匠出願できるようになります。これにより、中国の最初の意匠出願を中国で行った場合、その後の類似意匠の適切な保護ができるようになると思われます。
【優先権の主張手続きの一部緩和(第30条)】
第30条の改正は、優先権を主張する場合、優先権の基礎出願の謄本の提出期限を、特許・実用新案で緩和する一方、意匠で緩和していません。なお、優先権の主張に係る声明を出願時に書面で行う点については、変更はありません。
〔特許・実用新案〕初めて出願した日から16か月以内
〔意匠〕 優先権出願の出願日から3か月以内
*第30条の「初めて出願した日」は、優先日と予想されるが、今後改定される審査指南などで確認を要します。
*意匠の3ヶ月以内の起算日は、明確に規定されていないが、改正前と同様に、優先権出願の出願日と思われます。
【意匠権の存続期間の変更(第42条)】
意匠権は、出願日から10年までの存続であったが、出願日から15年までの存続に変更されます。
【職務発明関連(第6条、第15条)】
使用者等(所属事業体)は、職務発明に係る専利を受ける権利および専利権に対して処分権を有することが明記されました。また、職務発明に対する合理的報酬が特定の方法に限定さないことも明記されました。
【専利の利用促進(第21条、第48条)】
国務院専利行政部門(国家知識産権局)には、専利の実施と運用を促進するように、専利基礎データを提供したり、地方人民政府と協力したりする義務が課されます。
【新規性喪失の例外の拡大(第24条)】
新規性喪失の例外の対象として、「国が緊急事態又は非常事態の情況下にあり、公共の利益のために初めて公開された場合」が新設されました。これにより、例えばコロナウィルスの流行のような非常事態時、公共の利益のための公開で新規性を失った発明を救済できるようになると思われます。
【専利権の開放許可制度の新設(第48条、第50条、第52条)】
専利権の活用を促進するために、専利権の開放許可制度(ドイツにおけるライセンス・オブ・ライトのような制度)が新設されました。専利権者は開放許可の声明を書面で提出します。これにより、開放許可の声明および条件が公告され、年金が減免されます。
但し、実用新案権または意匠権の開放許可の声明を提出する場合は、実用新案権または意匠権の評価報告書を提供する必要があります。
専利権者は、開放許可によって、ライセンシーに通常許諾のみ与えることができますが、独占的または排他的許諾を与えることはできません。
なお、開放許可の声明は撤回でき、撤回声明が公告されても、先に与えられた開放許可の有効性には影響しません。
【専利権の制限(第20条)】
不正当な専利出願と専利権の濫用を防止するために、専利出願をすることと専利権の行使は、誠実信用の原則に従わなければならないとの規定が新設されました。
また、専利権を濫用し、競争を排除または制限し、独占的行為を構成する場合、独占禁止法に基づいて処理されることが明記されました。この独占的行為としては、独占禁止法の第3条第2号に定義された「事業者が市場支配的地位を濫用する」行為が該当しそうです。
【旧専利復審委員会関連(第21条、第41条、第45条、第46条)】
専利法における「専利復審委員会」が「国務院専利行政部門」(すなわち、国家知識産権局)に修正されました。
【専利権評価報告の任意提出(第66条)】
改正前は、人民法院又は専利業務管理部門は、専利権者又は利害関係者に対し、専利権評価報告書を提出するよう求めることができるとされていました。
今回の改正により、訴えられた侵害者も専利権評価報告書を提出することが可能となります。
【専利を模倣した場合における罰金の引き上げ(第68条)】
違法所得による罰金は違法所得の4倍から5倍に引き上げられ、違法所得がない場合の罰金も20万元以下から25万元以下に引き上げられます。また、違法所得が5万元以下の場合も、25万元以下の罰金を科することができるようになります。
【「国務院専利行政部門」の権限の拡大(第70条)】
従来、「国務院専利行政部門」は、専利権侵害紛争を処理する権限がなかったが、今回の改正により、全国で重大な影響がある専利権侵害紛争を処理することができるようになります。
【賠償に関する改正(第71条)】
(1)損害賠償額の算定における優先順位の廃止
改正前は、損害賠償額は、第1に損失額、第2に利益額の優先順位に従い、決定するようになっていました。
今回の改正により、該優先順位が廃止され、損失額または利益額のいずれかを選択して損害賠償額を請求することができるようになります。
(2)懲罰的損害賠償制度の導入
改正前は、損害賠償額は、損害の補填を原則としていたが、改正により懲罰的損害賠償制度が導入され、故意の専利権侵害については、事情が重大な場合は、上記方法で確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償額を定めることができるようになります。
(3)法定賠償額の引き上げ
法定賠償額は「1万元以上100万元以下」から「3万元以上500万元以下」に引き上げられます。
【訴訟前の財産保全(第72条)】
訴訟を提起する前に、人民法院に財産保全や、一定の行為の実施、一定行為の禁止を命じる措置を講じるよう申請できるようになります。
【訴訟時効の延長(第74条)】
専利権侵害訴訟の時効は2年から3年に延長されます。
【発明専利権存続期間の延長(第42条)】
(1)審査遅延に応じた発明専利権存続期間の延長
出願から4年、審査請求から3年経過後に専利権が付与された場合、不合理な遅延に対して、存続期間の補填を請求できるようになります。
(2)新薬の承認に応じた発明専利権存続期間の延長
新薬の承認に応じた存続期間の補填を請求できるようになります。ただし、補填期間は最長5年で、承認後の存続期間は14年を超えないことを条件とします。
【パテントリンケージ(第67条)】
中国ではパテントリンケージ制度導入の準備が進んでおり、今回の改正法において同制度に関する第76条が新たに導入されました。