EPOにおいて改訂欧州審査ガイドラインが2021年3月1日に発効しました。今回の改訂は、審査ガイドラインの8つのパート全てにわたっています。主な改訂概要は以下の通りです:
生物学的材料(biological material)の試料の請求に関するEPOの実務を説明する新サブセクションの追加(A-IV, 4.4)
・生物学的材料に関する欧州特許出願の公開日から、規則31に従って寄託された生物学的材料は、ファイルを閲覧する権利を有する者の請求によって入手できる(A -XI, 1)。
ビデオ会議による協議の開催を勘案した修正(C-VII, 2; C-VII, 2.1; C-VII, 2.2; C-VII, 2.3; C-VII, 2.4; C-VII, 2.5)
・出願人との個別の非公式な協議の好ましい方式として、電話会議に代わってビデオ会議が審査ガイドラインに盛り込まれた。電話会議は必要に応じて行われる。
・出願人やその代理人以外の人(発明者、出願人の従業員、非EP代理人)もビデオ会議への参加が認められ得る。その際、出願人やその代理人とは異なる場所からの参加も、請求により認められ得る。
・ビデオ会議への参加を請求した人の身元に疑義がある場合、ビデオ会議のカメラに身分証明書を写すか、電子メールで身分証明書を送ることによって確認される。
・協議において口頭で主張したことを手続き的に有効にするためには書面で確認する必要がある。
ビデオ会議による口頭手続等に関するEPO長官の決定(2020年にEPO官報で公表されたもの)を考慮した修正(E-III, 1; E-III, 6; E-III, 8.2等; E-III, 8.11.4; E-IV, 1.11.2)
・審査手続における口頭審理(Oral Proceedings)は、EPO構内またはビデオ会議にて開催され得るが、重大な理由が無い限り、原則としてビデオ会議によって行われる。
・口頭審理の召喚状には、「正規に召喚された当事者がビデオ会議による口頭審理への接続ができない等の場合があっても、その当事者なしで審理が進められ得る。」ことが記載されなければならない。
・請求により、出願人及びその代理人は、異なる場所からビデオ会議による口頭審理に接続できる。
・審査官も異なる場所から等しくビデオ会議による口頭審理に接続できる。その場合、各審査官は別の通信チャネルを介して検討し、審査官間の投票で意見を表明する。
クレームされた対象の範囲外となる明細書/図面の部分の明確化(F-IV, 4.3(iii))
・「独立クレームの範囲に含まれない実施形態を・・・削除する必要がある」と明記され、従前のEPO運用(明細書の記載をクレームの範囲に対応させること)が更に厳格化された。具体的には、補正によりクレームの範囲に含まれなくなった場合、「embodiment」を「example」に、または「invention」を「disclosure」に単に用語を変更するだけでは、この要件を満たすには不十分であるとされた。例えば「この部分は、クレームされた発明を記載するものではない」ことを明記する必要がある。
・なお、補正後のクレームの具体的特徴を強調するために有用であると合理的に認められる場合には、独立クレームの範囲に含まれない実施形態であっても削除しなくてよい旨が規定された。
拡大審判部の審決G 3/19(本質的に生物学的な方法によって専ら得られる植物及び動物のクレームの特許性は否定される旨結論付けたもの)を考慮した訂正(F-IV, 4.12)
プロダクトバイプロセスクレームについて、以下の点が追記または修正された。
・本質的に生物学的な方法によってのみ得られた植物および動物に関する規則28(2)に基づく除外は、2017年7月1日以前に登録になった特許および出願日および/または優先日が2017年7月1日以前の特許出願には適用されない。
・クレーム中の特徴が技術的方法と本質的に生物学的方法の両方の結果であり得る場合は、クレームの対象を技術的方法によるものとなるように部分放棄(disclaimer)が必要である。特徴が明らかに技術的方法による場合、部分放棄は不要。
・動物または植物に識別可能で明確な技術的特徴を与えない場合、動物または植物に関するクレームは不明確となる。
単一性欠如を起案する際に「最小限の根拠(minimum reasoning)」で裏付けするサブセクションの訂正(F-V, 2; F-V, 2.2; F-V, 3等)
・単一性の検討に3つのステップを採用することを規定。
(i)請求項間の共通事項を決定。
(ii)共通事項がEPC規則44(1)の特別な技術的特徴を構成しているかを検討。
(iii)共通事項が特別な技術的特徴を構成していない場合、特定された共通事項の一部ではない残りの技術的特徴を分析し、請求項間に単一の技術的関係が存在するかを判断。
(i)(ii)は従前通りだが、(iii)はEPOで行われてきた慣行を追加した。
・審査官が単一性欠如の拒絶理由を提起する際に最小限の根拠(上記(i)(ii)(iii)の内容等;F-V.3.3.1参照)を示す必要があることを規定。
データ管理システム及び情報検索の審査に関するEPOの実務を説明する新しいサブセクション(G-II, 3.6.4)
・データベース管理システムによる構造化クエリの実行を、必要なコンピュータリソースに関して最適化することは、コンピュータシステムの効率的な利用に関する技術的考慮を伴うため、発明の技術的特徴に寄与する。但し、データベース管理システムによる構造化クエリの実行と、単なる情報検索とは区別される。
・情報検索にて関連性や類似性を推定する方法が、主観的な基準などの非技術的考慮に依存するに過ぎない場合、情報検索は技術的貢献を備えない。
拡大審判部の審決G 3/19を考慮した改訂(G-II, 5.2; G-II, 5.4; G-II, 5.4.1; G-II, 5.4.2.1; G-II, 5.5.1)
・拡大審判部の審決G3/19を受け、2017年7月1日以降の出願日および/または優先日を有する出願については、本質的に生物学的な方法によって得られた植物および動物に係る発明は特許の対象外となった。
・また、微生物学的方法およびその生成物は特許の対象であるが、植物細胞や細胞培養液等は、微生物学的方法で得られたものであっても、植物全体を再生できる植物原料については、当該原料の元になる植物が本質的に生物学的な方法によって得られたものである限り、特許の対象外となることが明記された。
拡大審判部の審決G 3/19を考慮した修正及び多能性幹細胞に関するEPOの実務を詳述するための訂正(G-II, 5.3)
・出願において道徳に反する使用の可能性が具体的に検討されるかまたは少なくとも示唆されていれば、その使用を公言していると認めることができると規定された。
・本質的に生物学的な方法によってのみ得られた植物および動物に関する規則28(2)に基づく除外は、2017年7月1日以前に登録になった特許および出願日および/または優先日が2017年7月1日以前の特許出願には適用されない。
・ヒト多能性幹細胞に関する出願(ヒトES細胞、その用途およびそれに由来する製品を含む)は、(i)出願が2003年6月5日以後の出願日または有効な優先日を有し、そして、(ii)その発明が、単為生殖的に活性化されたヒト卵母細胞に由来したヒトES細胞を用いて実施できれば、特許の対象から除外されない。
・胎児・出生後のヒト細胞は原則、特許の対象から除外されない。
・ヒト胚細胞と使用するための培地、サポートおよび装置自体は、特許の対象から除外されない。
・単為生殖生物またはそれに由来する細胞は原則、特許の対象から除外されない。
抗体に関するEPOの実務を詳述する新しいサブセクション(G-II, 5.6等)
・抗体は、配列のみによって規定する場合、一定の場合を除いて6つのCDRすべてで規定する必要がある。
・抗体は、機能特性と組み合わせて部分配列で規定することができる
・抗体はまた、機能特性のみに基づいて規定することもできる。
・既知の有効な抗体と比較した場合の驚くべき技術的効果の例(例えば、改善された親和性、改善された治療活性、減少した毒性または免疫原性、予期しない種の交差反応性、または証明された結合活性を有する新しいタイプの抗体フォーマット)が追加された。
・抗体は、結合親和性に基づいて進歩性を議論する場合、フレームワーク領域も規定する必要がある。
・抗体は、その配列が予期できなかったことのみをもって進歩性が認められることはない。
<参考>
・2021年改訂審査ガイドライン全文(英文)
EPO HP:Guidelines for Examination in the European Patent Office – March 2021 edition