(1)概要
優先権を主張する資格に関する拡大審判部の審決(G 1/22, 2/22)が出されました。
本件では、
(1)当事者が優先権を主張する資格を有するかどうかを決める権限が欧州特許庁にあるか、
(2)先のUS出願に発明者として記載されていない後のPCT出願の共同出願人はEPにおいて有効に優先権を主張できるか、
という点が焦点になりました。
なお、異議部及び審査部は、先の出願に出願人として記載されている全発明者からPCT出願の出願前に各欧州特許出願の出願人に優先権が譲渡されていなかったとして、優先権を否定しました。
(2)回答(Order)
拡大審判部の回答(Order)は以下の通りです。
1.欧州特許庁は、当事者がEPC87(1)に基づいて優先権を主張する資格を有しているかどうかを評価する権限を有する。
EPCの自治法の下では、EPC88(1)及び対応する実施規則にしたがって優先権を主張する出願人は優先権を主張する資格を有するという、反論可能な推定がある。
2.この反論可能な推定は、欧州特許出願がPCT出願に由来する場合、及び/又は、先の出願人が後の出願人と一致しない場合にも適用される。
PCT出願が当事者A,Bにより共同して出願され、(i)当事者Aを1以上の指定国に、当事者Bを1以上の他の指定国に指定し、かつ、(ii)当事者Aを出願人とする先の特許出願の優先権を主張する場合、共同出願の事実は、当事者A,B間で当事者Bに優先権の主張を許可するという合意があることを、これに反する実質的な事実の兆候がない限り、暗示する。
(3)実務上の留意点
本審決が出されるまでは、今後EPで優先権を有効に主張するためには、先の出願と後の出願とで出願人を完全に一致させたり、優先権の譲渡等について証拠書類を作成したりしなければならないのではないかという懸念がありました。
しかしながら、拡大審判部の審決(G 1/22, 2/22)により、共同出願の場合には、共同出願人のあいだで互いに優先権の主張を許可するという合意があると(これに反する証拠等がない限り)推定されることが明示されました。
そのため、上記の懸念はなくなり、これまで通りの実務でEPにおいて有効に優先権を主張できるものと思われます。
(参考)
EPO HP: Press Communiqué of 10 October 2023 concerning decision G 1/22 and G 2/22 of the Enlarged Board
of Appeal
(北出 英敏)