[判示事項]
2014年11月17日、ANTARES PHARMA INC. v. MEDAC PHARMA INC.事件において、CAFC(米国連 邦巡回控訴裁判所)は、再発行特許のoriginal patent(原特許)要件を満たすためには、明細 書が「明確かつ曖昧でないように、新しくクレームされた発明を独立した発明として開示している」必要があるとし、問題となっている再発行特許のクレームの一部はこの要件を満たしていないために無効であると判示した。
[事件の概要]
ANTARES PHARMA INC.(以下「ANTARES社」)は、ニードル補助装置付きジェット注射器に関する米国特許7,776,015を所有していた。この特許は、ジェット注射器に焦点を当てており、特許のクレームはすべて、「ジェット注射器」という限定を含んでいた。クレームの拡張が可能な期間内に、ANTARES社は再発行特許を出願し、特定の安全機能(safety features)に焦点を当てており、ジェット注射器の限定を含まないクレームを追加した。
再発行特許44,846が発行されたところで、ANTARES社はMEDAC PHARMA INC.(以下「MEDAC」社)が販売する注射器が再発行特許を侵害するとして、仮差し止め命令を求めて提訴した。
地裁は、クレームが、recapture(再取得)を禁止するルールに反しているために無効である可能性が高いと判断し、ANTARES社の訴えを斥けた。ANTARES社は地裁判決を不服として、CAFCに控訴した。
この控訴審におけるCAFCの判断は上記のとおりであり、結果的に地裁の判断を支持した。
具体的にはCAFCは、問題の再発行特許の安全機能に関するクレームがoriginal patent要件を満たしていない理由として
・明細書中の「本発明」がジェット注射器に関するものであるとして繰り返し記載されていること、
・明細書において「本発明に係るニードル補助装置付きジェット注射器」という記載が繰り返し登場すること、
・安全機能(safety features)がジェット注射器から切り離して記載されていなかったこと、
・「プッシュボタン」(※クレームされた安全機能)は、明細書において代替的な発明 (alternative invention)として記載されているにすぎず、代替発明の「提案」または「示唆」はoriginal patent要件を充足するのに十分ではないこと
等を挙げた。
なお、控訴審は、問題の再発行特許が無効であるか否かをde novo基準に従って検討し、地裁が 判断していないoriginal patent要件違反を理由に再発行特許が無効であるとし、地裁が判断した、recapture禁止ルールについては判断しなかった。
[留意事項等]
original patent要件は従前からあったものであり、今回の判決は従前の裁判例等に従って問題の再発行特許の有効性が判断されている。original patent要件は、米国特許法112条で規定されている記載要件よりも厳しい基準であり、再発行特許でクレームされている発明が、明細書において提案され、示唆されているだけでは足りず、明確かつ曖昧でないように別発明として記載されていることを要求する。所定期間内に再発行特許出願をしても、無制限にクレームの拡張が認められるわけではなく、厳しい要件が課されることに留意する必要がある。
※original patent要件:再発行を受ける発明は原特許に開示されていなければならないとする要件
※recapture 禁止ルール:審査の過程で放棄した範囲を再度取得することはできないとするルール
以上