D’Arcy v Myriad Genetics Inc.
(オーストラリア高等裁判所、[2015] HCA 35、7 October, 2015)
Myriad社の、がん遺伝子を用いた診断方法の特許について、オーストラリア高等裁判所は単離された核酸配列に特許適格性がないとの判決を下した。
オーストラリア特許法では、Section 18(1)(a)に、特許性を有するためには、’manner of manufacture'(製造の態様)に該当する必要があるとされている。オーストラリア高等裁判所は、1959年のNRDC事件において、この’manner of manufacture’に該当するものは、’economic significance'(経済的意義)を有する’artificially created state of affairs'(人為的に創造された状態)であると判示している。
単離核酸は天然に存在する状態であり、人為的な創造ではないとして、特許性を有しないこととなった。
これを受けて、オーストラリア特許庁(IP Australia)は、特許適格性について提案を行い、パブリックコメントを募集した。長官による提案は以下のとおり:
①以下については特許適格性がない:
・単離されたかまたは合成された、ポリペプチドまたはその機能的な断片をコードする、天然に生じる(ヒトの)核酸配列
・単離されたかまたは合成された、ポリペプチドまたはその機能的な断片をコードする、天然に生じる(非ヒトの)核酸配列
・cDNA
・単離されたかまたは合成された、天然に生じるヒトおよび非ヒトのコーディングRNA
②以下については特許適格性がある:
・天然に生じる、単離調節DNA(例えばプロモーター、エンハンサー、インヒビター、遺伝子間DNA)
・単離非コーディング(例えば「ジャンク」)DNA
・単離非コーディングRNA(例えばmiRNA)
・天然に生じる単離菌
・天然に生じる単離ウイルス
・単離ポリペプチド
・合成された/修飾されたポリペプチド
・単離ポリクローナル抗体
・天然源から精製された化学分子(例えば新規化学物質、抗生物質、小分子)
・単離細胞
・単離幹細胞
・プローブ
・プライマー
・単離された干渉/阻害核酸(例えば、アンチセンス、リボザイム)
・モノクローナル抗体
・融合/キメラ核酸
・天然に生じる遺伝子配列を含むトランスジーン
・トランスジーンを含むベクター/微生物/動物/植物
パブリックコメント募集は2015年10月16日から2015年11月6日まで実施された。今後のオーストラリア特許庁の動向が注視されるところである。
本件についてのオーストラリア高等裁判所のHP(裁判所に提出された書類を閲覧できます。最下段の、Judgementのリンクから判決文も参照できます)
http://www.hcourt.gov.au/cases/case_s28-2015
オーストラリア特許庁によるパブリックコメント募集
http://www.ipaustralia.gov.au/about-us/public-consultations/Consultation-on-our-proposed-examination-practice-following-the-High-Court-decision-D’ArcyvMyriad-Genetics-Inc/
(弁理士 稲井 史生)