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【日本】 医薬品分野において均等侵害が認められた判決

IPニュース 2016.04.05
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知財高裁・大合議 平成28年3月25日判決(平成27年(ネ)第10014号)

[医薬品分野において,特許発明と均等であることを理由として,特許権の侵害が認められた事例]

1.事件の概要

本事件は、発明の名称を「ビタミンDおよびステロイド誘導体の合成用中間体およびその製造方法」とする本件特許(特許第3310301号)を有する被控訴人(一審原告)が,控訴人ら(一審被告ら)に対し,控訴人らの輸入販売に係るマキサカルシトール製剤等(控訴人製品)の製造方法(控訴人方法)は,本件特許の訂正後の特許請求の範囲(請求項13)に係る発明(訂正発明)と均等であり,控訴人製品の販売等は本件特許を侵害すると主張して,控訴人製品の輸入譲渡等の差止め及び廃棄を求めたものである。

原審は,一審被告方法が訂正発明と均等であることを認め,また,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して,一審原告の請求をいずれも認容した。そこで,一審被告らが,これを不服として控訴した。

2.本件特許(訂正発明)と控訴人方法

本件特許の訂正発明は,出発物質を特定の試薬と反応させて中間体を製造し,その中間体を還元剤で処理して目的物質を製造するという化合物の製造方法であり,控訴人方法は,訂正発明の試薬及び目的物質に係る構成要件を充足するが,出発物質及び中間体の炭素骨格が,シス体のビタミンD構造ではなく,その幾何異性体であるトランス体のビタミンD構造であるという点で,訂正発明の出発物質及び中間体に係る構成要件と相違する。

3.裁判所の判断

本判決では、控訴人方法が訂正発明と均等であることを認め,また,訂正発明についての特許が特許無効審判により無効にされるべきものとは認められないと判断して,原審を支持し、請求を棄却した。

均等については、最高裁平成10年2月24日判決・平成6年(オ)第1083号(ボールスプライン事件)が,均等が認められるための5要件を示しており,本件においては,5要件の具体的な適用による均等の成否が争われた。以下では、これらの争点のうち、第1要件と第5要件について説明する。

(1)均等の第1要件(非本質的部分)について

ボールスプライン事件(最高裁判決)の均等の第1要件は,特許請求の範囲に記載された構成中に,相手方の製品又は方法と異なる部分が存する場合であっても,その部分が特許発明の本質的部分ではないことである。

本判決では、「本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段 …とその効果…を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。」とした。

また、「本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである」としたうえで,「①従来技術と比較して特許発明の貢献の程度が大きいと評価される場合には,特許請求の範囲の記載の一部について,これを上位概念化したもの」として認定され,「②従来技術と比較して特許発明の貢献の程度がそれ程大きくないと評価される場合には,特許請求の範囲の記載とほぼ同義のもの」として認定されるとした。

本件発明については、「訂正発明は,従来技術にはない新規な製造ルートによりその対象とする目的物質を製造することを可能とするものであり,従来技術に対する貢献の程度は大きい。」とし、訂正発明の本質的部分を「新規な製造ルート」に認定したうえで、出発物質及び中間体の炭素骨格のビタミンD構造が「シス体」ではなく,「トランス体」であることは,訂正発明の本質的部分ではないとした。こうして、均等の第1要件を充足すると判断した。

(2)均等の第5要件(特段の事情)について

ボールスプライン事件(最高裁判決)の均等の第5要件は,対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情がないことである。

本判決では、この点,「特許請求の範囲に記載された構成と実質的に同一なものとして,出願時に当業者が容易に想到することのできる特許請求の範囲外の他の構成があり,したがって,出願人も出願時に当該他の構成を容易に想到することができた」としても,そのことのみを理由として,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことが第5要件における「特段の事情」に当たるとはいえないとした。

もっとも,このような場合であっても,「出願人が,出願時に,特許請求の範囲外の他の構成を,特許請求の範囲に記載された構成中の異なる部分に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認められるとき」(例えば,出願人が明細書において当該他の構成による発明を記載しているとみることができるときや,出願人が出願当時に公表した論文等で特許請求の範囲外の他の構成による発明を記載しているとき)には,出願人が特許請求の範囲に当該他の構成を記載しなかったことは,第5要件における「特段の事情」に当たるとした。

本件事案については、「訂正明細書中には,訂正発明の出発物質をトランス体のビタミンD構造とする発明を記載している」とみることができる記載はなく,その他,「出願人が,本件特許の出願時に,トランス体のビタミンD構造を,訂正発明の出発物質として,シス体のビタミンD構造に代替するものとして認識していたものと客観的,外形的にみて認めるに足りる証拠」はないとした。こうして、均等の第5要件における特段の事情は認められないと判断した。

4.所感

今回の知財高裁・大合議判決は、医薬分野のクレーム解釈において均等侵害を認めた初めての事案である。

ジェネリック企業のビジネスは、先発メーカーのクレームから外れるところについて、ジェネリック医薬品を製造販売することがベースとなっている。

今回の判決により、今後は、ジェネリック企業において、クレーム解釈をより慎重に、とりわけ文言解釈に加えて均等侵害の可能性も視野に入れて、権利侵害回避を検討することが望まれる。

一方、今回の判決により、均等侵害の可能性、すなわち、より十全な権利保護の可能性が示されたことで、先発メーカーに期待されているイノベーションの推進に追い風となる判決と見ることもできよう。

なお、本判決は、具体的には、「シス体」に限定されたビタミンD構造に対して、「トランス体」のビタミンD構造を、とりわけ均等の第5要件に照らして均等として認定し、特許権侵害を認めた事例であるが、均等侵害についての予見可能性を高めるには、判例の蓄積も必要であり、今後の判例の動向に注目したい。

http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/769/085769_hanrei.pdf

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