知財高裁 平成30年10月17日判決(平成29年(行ケ)10232号)
「ステーキの提供システム」について発明該当性を認めて、特許庁の取消決定を棄却した知財高裁判決
1.事件の概要
原告は,発明の名称を「ステーキの提供システム」とする発明につき,平成26年6月4日に特許出願をし(特願2014-115682号),平成28年6月10日,その設定登録を受けた(特許第5946491号。以下,「本件特許」という。)。
平成28年11月24日,本件特許の請求項1~6について特許異議申立てがなされたところ(異議2016-701090号),原告は,平成29年9月22日付けで特許請求の範囲を訂正する訂正請求をした(以下,「本件訂正」という。)。特許庁は,平成29年11月28日,本件訂正を認めたうえで、本件特許の請求項1~6に係る特許を取り消すとの決定をした。これに対して、原告は、当該異議決定の取り消しを求めて、知財高裁に提訴した。
争点は、発明該当性の有無であり、本件特許について、訂正後の請求項1~6に係る発明について争われたが、ここでは、請求項1に記載された発明(以下,本件特許発明1という。)について論じる。
2.本件特許発明1
本件訂正後の本件特許発明1の記載は,次のとおりである。
【請求項1】
A お客様を立食形式のテーブルに案内するステップと,お客様からステーキの量を伺うステップと,伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップと,カットした肉を焼くステップと,焼いた肉をお客様のテーブルまで運ぶステップとを含むステーキの提供方法を実施するステーキの提供システムであって,
B 上記お客様を案内したテーブル番号が記載された札と,
C 上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量する計量機と,
D 上記お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印しとを備え,
E 上記計量機が計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力することと,
F 上記印しが上記計量機が出力した肉の量とテーブル番号が記載されたシールであることを特徴とする,
G ステーキの提供システム。
3.特許庁の判断
特許異議申立における取消決定において,本件特許発明1は,その本質が経済活動それ自体に向けられたものであり,全体として「自然法則を利用した技術思想の創作」に該当しないから,特許法2条1項所定の「発明」に該当しないと判断して,本件特許を取り消した。
4.知財高裁の判断
(1)本件特許発明1
本件特許発明1は,お客様に,好みの量のステーキを,安価に提供することを目的(課題)とする。そして,①構成要件Aで規定されるステーキの提供方法(本件ステーキ提供方法)を実施する構成により,お客様が好みの量のステーキを食べることができるとともに,少ない面積で客席を増やし,客席回転率を高めることができることから,ステーキを安価に提供することができる。また,②構成要件B~Fに規定された「札」,「計量機」及び「シール(印し)」(本件計量機等)を備える構成により,お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができる。
(2)ステーキの提供方法(人が実施する手段)
本件ステーキ提供方法は,ステーキ店において注文を受けて配膳をするまでに人が実施する手段を特定したものである。したがって,本件ステーキ提供方法の実施に係る構成は,「ステーキの提供システム」として実質的な技術的手段を提供するものであるということはできない。
(3)本件発明の構成要素
本件計量機等は,「札」,「計量機」及び「シール(印し)」といった特定の物品又は機器(装置)であり,「札」に「お客様を案内したテーブル番号が記載され」,「計量機」が,「上記お客様の要望に応じてカットした肉を計量」し,「計量した肉の量と上記札に記載されたテーブル番号を記載したシールを出力」し,この「シール」を「お客様の要望に応じてカットした肉を他のお客様のものと区別する印し」として用いることにより,お客様の要望に応じてカットした肉が他のお客様の肉と混同することを防止することができるという効果を奏するものである。
(4)技術的意義
札によりテーブル番号の情報を正確に持ち運ぶことができるから,計量機においてテーブル番号の情報がお客様の注文した肉の量の情報と組み合わされる際に,他のテーブル番号(他のお客様)と混同が生じることが抑制されるということができ,「札」にテーブル番号を記載して,テーブル番号の情報を結合することには,他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。
また,肉の量はお客様ごとに異なるのであるから,「計量機」がテーブル番号と肉の量とを組み合わせて出力することには,他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。さらに,「シール」は,お客様の肉やオーダー票に固定することにより,他のお客様のための印しと混じることを防止することができるから,シールを他のお客様の肉との混同防止のための印しとすることには,他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係で技術的意義が認められる。
(5)発明の効果(課題解決)
他のお客様の肉との混同を防止するという効果は,お客様に好みの量のステーキを提供することを目的(課題)として,「お客様からステーキの量を伺うステップ」及び「伺ったステーキの量を肉のブロックからカットするステップ」を含む本件ステーキ提供方法を実施する構成を採用したことから,カットした肉とその肉の量を要望したお客様とを1対1に対応付ける必要が生じたことによって不可避的に生じる要請を満たしたものである。このように,上記効果は,本件特許発明1の課題解決に直接寄与するものであると認められる。
(6)結論
以上のとおり,本件特許発明1の技術的課題,その課題を解決するための技術的手段の構成及びその構成から導かれる効果等の技術的意義に照らすと,本件特許発明1は,札,計量機及びシール(印し)という特定の物品又は機器(本件計量機等)を,他のお客様の肉との混同を防止して本件特許発明1の課題を解決するための技術的手段とするものであり,全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当するということができる。
したがって,本件特許発明1は,特許法2条1項所定の「発明」に該当する。
5.コメント
本判決は、技術的特徴の乏しい発明に対して、発明該当性が認められたことにより、注目された事例である。とくに、「ステーキの提供方法」は、「人為的な取決め」に該当する可能性があり、「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法2条1項)の関係が争われた。
審査基準には、「発明特定事項に自然法則を利用していない部分があっても、請求項に係る発明が全体として自然法則を利用していると判断される場合は、その請求項に係る発明は、自然法則を利用したものとなる」と説明されている。本判決においても、「全体として「自然法則を利用した技術的思想の創作」に該当する」と判示されており、請求項に係る発明を全体として判断する手法は、審査基準の考え方に対応している。
また、本判決においては、明細書において「他のお客様の肉との混同を防止する」という効果について、技術的手段との関係から具体的に説明されている。その結果、「他のお客様の肉との混同を防止するという効果との関係」から技術的意義が認められ、発明該当性が認められた。今後は、技術的特徴に乏しい発明の場合、発明該当性を満たすためには、技術的手段と「構成から導かれる効果」の関連性について、明細書に具体的に説明しておくことが重要であろう。
なお、技術的意義の判断について予見可能性を高めるには、さらなる判例の蓄積も必要であり、今後の判例の動向に注目したい。
http://www.ip.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/058/088058_hanrei.pdf