【韓国】韓国大法院判決(韓国大法院2019.1.17. 宣告、2017Da245798判決)
(延長された特許権の効力が、延長の原因となった許可医薬品が塩である場合に、これと異なる塩である医薬品の製造販売に及ぶかどうかについて)
韓国においても、日本と同様に、医薬品の製造販売に当局の許可が必要であって、その取得に時間を要したため特許権を取得しているにも拘わらず、特許製品の販売ができなかった特許権者に対しては、その実施できなかった期間について、5年を限度として特許権の延長を認める制度があります。しかしながら、この延長された特許権の効力は、当該特許の特許請求の範囲の記載によって定められるのではなく、当該許可の範囲に限定されることになっています。韓国特許法95条は、この点について、「存続期間が延長された特許権の効力はその延長登録の理由となった許可の対象物(その許可において、物について特定の用途が定められている場合には、その用途に用いられる物)についての当該特許発明の実施にのみ及ぶ」という趣旨を規定しています。
本件裁判事件では、特許権者はコハク酸ソリフェナシンを有効成分とするベシケア錠を経口投与剤として過敏性膀胱症状(所謂過活動膀胱疾患)等の処置用に販売しておりました。これに対して、被告は、フマル酸ソリフェナシンを同じ用途の経口投与剤として販売したものであり、特許権者の延長された特許権の効力が被告の販売するフマル酸ソリフェナシンに及ぶかどうかが争われた事件であります。
下級審である地方法院は、特許権者の延長された特許権の効力は「許可の対象物についての実施に限られる」から、延長された特許権の効力は、許可の対象である「コハク酸ソリフェナシン」についての発明の実施行為にのみ及ぶものであり、これと異なる「フマル酸ソリフェナシン」を製造販売する被告の行為には及ばないとしました。さらに、地方法院の上級審である特許法院も、被告による「フマル酸ソリフェナシン」の製造販売行為には、延長された特許権の効力は及ばないと判断しました。
大法院は、これら下級審での形式的な判断を覆して、延長された特許権の効力は、特許権者が販売するコハク酸ソリフェナシンに限らず、被告製品であるフマル酸ソリフェナシンに及ぶという判断を示しました。
大法院は、被告の製品であるフマル酸ソリフェナシンは、特許権者の製品であるコハク酸ソリフェナシンとは、所謂塩変更医薬品に相当するものであって、その効能、効果、用法、用量、副作用、薬理作用等が特許権者のコハク酸ソリフェナシンとほとんど同等であると推定され、経口投与により投与されたとき消化管内で分解されて、特許権者の製品と同一の化合物となって吸収されることが明確であり、その塩形成に使用したフマル酸もまた医薬品の塩形成剤として頻繁に使用されるものに該当するという理由で、延長された特許権の効力が被告の製品の販売行為及ぶと判断しました。大法院は、また、被告はその製品の許可取得に際して、特許権者が実施した特許権者の製品に対する毒性、薬理作用、臨床試験成績等の多数の安全性・有効性に関する資料を援用することによって、これらの試験資料の提出を免除されて、健康なヒトを対象とした臨床第1相試験において被告の製品を投与した後、有効成分であるソリフェナシンの血中濃度が特許権者の製品を投与したときと同等な水準であることを確認する内容の生物学的同等性の試験資料を提出することによって許可を受けていることを指摘しています。このように、先発医薬品と生物学的に同等であることを前提として、通常新規医薬品の許可取得に必要とされる毒性、薬理作用、臨床試験成績等の膨大な安全性・有効性に関する資料の提出を免除された後発医薬品(所謂ジェネリック医薬品)としての許可を受けた医薬品については、先発医薬品と異なる特徴(より優た効果を含めて)を主張して、特許権侵害を免れることはできないということを判示しているものと解されます。大法院が本件侵害を判断するに際して依拠したもう一つの理由、すなわち「フマル酸もまた医薬品の塩形成剤として頻繁に使用されるものに該当する」との点については、もしこれに該当しないような塩形成剤を使用して形成した塩が生物学的同等性を有する場合にどうなるかはなお検討の余地がありそうです。