2019年9月23日、中国国家知識産権局が「専利審査指南改正案」を発表しました。本改正案は、2019年11月1日より施行されております。主要な改正項目及び概要は以下の通りです。
1.再分割出願について
中国では、親出願が審査に係属しなくなった後は原則再分割出願が認められないが、例外として親出願から分割された分割出願に対して単一性違反の拒絶理由が出された場合に限り、再分割出願が認められる。本改正では、上記例外の場合の再分割出願の主体要件及び時期的要件について明確な規定が設けられた。
(1)主体要件
「再分割出願する出願人は、当該分割出願の出願人と同一でなければならない。且つ、再分割出願の発明者は、当該分割出願の発明者又はその一部の構成員でなければならない」との規定が設けられた。
(2)時期的要件(2019.12.11追記)
「再分割出願の提出日は、単一性の欠陥が存在する分割出願に基づき審査を行わなければならない」との規定が設けられた。これにより、上記例外の場合の再分割出願は、次の(i)~(iii)の期間で認められるとのことである*。
(i) 単一性違反が指摘された分割出願が登録査定後、2ヶ月以内
(ii) 単一性違反が指摘された分割出願が拒絶査定後、3ヶ月以内
(iii) 単一性違反が指摘された分割出願の拒絶査定不服審判の審決取消訴訟期間中
* なお、上記(i)~(iii)の期間に関する情報は、複数の信頼できる中国弁理士からの確認を得ておりますが、審査指南内で明文化されてはおりません。
2.GUI(グラフィカルユーザインターフェース)関連意匠出願の記載要件
2014年審査基準改正以降、中国ではGUIに関する意匠登録出願が可能となったが、部分意匠制度が導入されていないため、GUIに関する意匠登録出願の際には、GUI単独ではなくGUIを付した製品全体として出願する必要がある。現在の審査基準では、GUIに関する意匠登録出願の際に、「意匠の簡単な説明」の欄に、必要に応じて、GUIの用途、製品中のGUIの領域、人とコンピュータとのインタラクションの方法及び状態の変化についての説明、及びGUIを含む製品全体の図面を提出すること等が規定されている。
本改正では、GUIに関する意匠登録出願について、更なる要件が追加された。主な追加要件は、(1)GUIに関する「意匠登録出願に係る物品」の物品の名称の記載、(2)GUIに関する意匠登録出願に係る意匠の図面又は写真である。特に、(1)については、GUIに関する意匠登録出願に係る物品を単に「GUI」、「ソフトウエアGUI」、又は「操作GUI」等とすることは認められないこと、(2)については、GUIに関する意匠登録出願に係るGUIが動的に変化する場合、変化状態図は、動的変化過程の順に沿って表記しなければならないことが記載された。
3.進歩性の判断及び審査意見通知書の記載について
(1)進歩性の判断
中国の特許要件の審査における進歩性の判断手法は、(i)最も近い従来技術の確定、(ii)発明の区別される特徴及び発明で解決する技術的課題の確定、(iii)保護を請求する発明が当業者にとって自明であるかどうかの判断の3ステップからなる判断手法(三歩法)を採用している。本改正では、技術的課題の確定について、「保護を請求する発明において、当該区別される特徴により達成できる技術的効果に基づいて発明の解決する技術的課題を確定しなければならない」との規定が設けられた。すなわち、発明の解決する技術的課題の確定にあたり、「保護を請求する発明において」区別される特徴により達成できる技術的効果を考慮することが明確にされた。
更に、「機能的に相互にサポートされ、相互作用関係を有する技術的特徴について、それらの技術的特徴及びそれらの間の関係により保護を請求する発明において達成される技術的効果を全体的に考慮しなければならない」との規定が追加された。
また、発明に対する理解について、「背景技術の全体像を十分に把握し」、「発明が背景技術と比べて改善した点を明確にする」との規定が設けられた。
(2)審査意見通知書の記載
本改正で、公知技術の認定について、審査意見通知書において、「審査官が請求項に記載された技術的課題の解決に寄与した技術的特徴が公知常識であると認定する場合、通常、証拠を提示してこれを証明しなければならない」との規定が設けられた。
4.審査官とのコミュニケーション
審査官との面接および電話討論のための時期、内容および方法(形式)に関する要件が、本改正により緩和された。
特に、従来の審査基準では電話討論について「副次的かつ誤解を招くことのない形式上の欠陥に関する問題の解決に限って適用される」と規定されていたが、本改正により電話討論の適用範囲が大幅に広げられ、「発明の従来技術の理解、出願書類にある問題点等」についても電話討論が利用できるようになった。さらに、ビデオ会議、電子メールなどによる討論も可能となった。
5.ヒト胚性幹細胞の保護
従来、ヒト胚性幹細胞及びその製造方法は、公序良俗違反として、特許権の付与対象から外されていた。本改正では、「発明が、体内発育を経ない受精後14日以内のヒト胚を利用して幹細胞を分離または取得するものであれば」、当該発明は公序良俗違反を理由に拒絶されないことが明記された。
6.無効審判における引例の組み合わせ
無効審判請求人が審判請求書において、「二以上の引例の組み合わせに基づいて無効理由を主張する場合、最も主要な組み合わせに基づいて比較分析を行う。最も主要な組み合わせが明確でない場合は、第1グループの引用文献の組み合わせが最も主要な組み合わせとみなされる」との規定が設けられた。
7.優先審査制度の客体要件
本改正では、優先審査の客体要件として、「国や地方政府が重点的に普及または奨励する産業に関連する、国の利益や公共の利益に対して重要な意義を有する出願、または市場活動において一定の需要がある出願など」の規定が設けられた。
8.審査延期制度の導入
本改正では、新たに審査延期制度が導入された。「出願人は特許並びに意匠登録出願について審査延期請求を提出することができる。延期期限は、延期請求の効力が生じた日から1年、2年、又は3年とする」との規定が設けられた。なお、「必要に応じて、専利局は、審査手続きを自主的に開始し、出願人に通知し、出願人が提出した審査延期請求を終了することができるものとする」ことも規定された。