中国においては、商標法および不正競争防止法に既に懲罰的損害賠償制度が導入されており、2021年6月1日から施行される専利法において特許・意匠についても懲罰的損害賠償制度が導入される予定です。これに伴い、最高人民法院から、「知的財産権侵害の民事事件における懲罰的損害賠償の適用に関する解釈」が発表され、2021年3月3日に施行されました。さらに、2021年3月15日には、懲罰的損害賠償制度を正しく運用するための典型的な事例6件が、最高人民法院により発表されました(下記表をご参照ください)。
<商標法に関する事件>
判決 | 裁判所 | 賠償倍率 | 概要 |
2020年 | 浙江省温州市中級人民法院 | 3倍 | ・以下の点が考慮された: -商標侵害で3回行政処罰を受けていた -侵害品数が累計17000点にもなる ・3倍の損害倍率が認められ、損害額は1037337.84元とされた ・なお、部品であって完成品ではないことから40%の減額がされている |
2019年 | 江蘇省高級人民法院 | 3倍 | ・以下の点が考慮された: -第二審の裁判係属中まで侵害品の販売を継続していた -販売店舗数や侵害品数が多い -本件商標が馳名(日本における著名)である -侵害品の品質が悪いために、商標権者の信用を毀損した ・3倍の賠償倍率が認められ、損害額は5000万元とされた |
2019年 | 広東省高級人民法院 | 3倍 | ・懲罰的賠償請求の要件「悪意」「深刻な状況」の認定要件を明確にしている ・本件商標が馳名 ・侵害品を大量生産していること、侵害品の品質が悪いことが考慮された ・3倍の賠償倍率が認められ、損害額は127.75万元とされた |
2020年 | 浙江省杭州市中級人民法院 | 2倍 | ・商標の専用使用権の侵害事件 ・先に行政処罰と刑事罰の対象となっていたこと、侵害持続時間等を考慮して「業として」侵害していたと判断された ・2倍の賠償倍率が認められた |
2015年 | 北京知識産権法院 | 2倍 | ・本件商標の高い知名度、侵害品数の多さ、高い利益率が考慮された ・2倍の賠償倍率が認められた |
<不正競争防止法に関する事件>
判決 | 裁判所 | 賠償倍率 | 概要 |
2019年 | 最高人民法院 | 5倍 | ・最高人民法院の判決である ・一審で2.5倍が認められていた ・本件技術秘密の貢献度、侵害者の悪意の程度、業としての侵害、立証妨害行為を含め、侵害規模および侵害期間が考慮された ・5倍の賠償倍率が認められ、賠償額は3000万元とされた |
典型事例は、中国において、2~3倍、最大で5倍もの倍率で懲罰的損害賠償が認められることを示しています。さらには、賠償倍率の考慮要素として、侵害状況、すなわち侵害品の販売数量の多さや販売利益の高さ、侵害期間の長さが考慮されることを示しています。
今回発表された典型事例は商標や営業秘密に関係するもののみですが、今後、特許等についても同様に適用されることが予想されます。今後の動向が注目されます。