2021年6月21日、米国連邦最高裁判所は、United States v. Arthrex, Inc. 事件のCAFCの判決を取り消し、事件をUSPTOに差し戻す判決を下しました。
背景
Arthrexの特許に対してSmith & Newphewが申請したIPR手続きの結果、PTABは、特許を無効とする最終決定を下しました。Arthrexは、この決定を不服としてCAFCに控訴しました。控訴理由は、IPR手続きを行うPTABの行政特許判事(APJ)は、合衆国憲法の「任命条項」に違反して任命されているため、そのようなAPJの決定は無効であるというものでした。
CAFCは、その任務・権限に照らしAPJは「上級官吏」に該当するとし、大統領でなく商務長官によって任命されたAPJは合衆国憲法に違反すると判断しました。そこでCAFCは、本件PTABの最終決定を取り消し、新たなAPJパネルの下で再度審理するようPTABに差し戻しました。この判決を不服として、複数の当事者が最高裁への上告を行いました。
判決の概要
米国連邦最高裁判所の判決の概要は、以下の通りです。
IPRにおけるAPJの決定は、USPTOの長官等の上級官吏によって見直し不可能となっている。一方、APJは下級官吏のみ任命が認められている商務長官によって任命されている。したがって、APJの任命方法と、APJが見直し不可能な決定を出せる権限との間に、整合が取れていない。
米国特許法第6条(c)の「IPRの再審理は、PTABのみが行うことができる」という規定は、PTABの決定を上級官吏である USPTO 長官等が見直すことを不可能にしており、合憲ではないため、施行できない。したがって、同規定に関わらず、USPTOの長官はPTABの決定を見直すことができる。
本事件の救済措置として、原審決を再審理するかどうかを決定するため、事件をUSPTO 長官代行に差し戻す。
実務への影響
本判決を踏まえ、USPTOは、暫定措置として、米国特許法第6条(c)に関わらず、USPTO長官はPTABの決定を見直すことができるとしています。暫定措置では、両当事者は、PTABの決定に対してPTABへのrehearing又はUSPTO長官へのreviewを請求することができます。USPTO長官へのreviewの請求は、PTABの決定から原則30日以内に行う必要があります。なお、PTABへrehearingを請求した場合、rehearingの結果についてUSPTO長官へreviewを請求することは可能です。いずれにしても、この手続きは暫定措置ですので、今後、USPTO長官がPTABの決定を見直すための具体的な手続について、規則等が策定されると考えられます。
(奥西 祐之)