中国専利法の第4次改正(2021年6月1日施行)により導入された医薬品特許紛争における早期解決システム(いわゆるパテントリンケージ制度)(専利法第76条)について、国家医薬品監督管理局、国家知識産権局(CNIPA)、および最高人民法院より、詳細な規定について2021年7月4日および5日に一連の発表がなされ、正式な施行が開始されました。
本制度は米国のパテントリンケージ制度に類似するものですが、待機期間が米国では30カ月であるのに対して中国では9カ月である、パテントチャレンジして承認された最初の後発医薬の独占期間が米国では180日であるのに対して中国では12カ月であるなどの、米国規定と比較してジェネリック寄りの相違点があります。
以下に、中国におけるパテントリンケージ制度の概要を説明します。
<パテントリンケージ制度の概要>
1.先発医薬品承認保持者による「医薬品特許情報登録プラットフォーム」への登録
先発医薬品承認保持者は、医薬品登録証明書を取得後30日以内に、当該医薬品に関連する特許情報などを「医薬品特許情報登録プラットフォーム」(以下、プラットフォーム)に登録する。
登録しない場合はパテントリンケージ制度の適用対象外となる。
<登録できる医薬品特許>
(1)化学医薬品(生薬を除く)特許:医薬活性成分の化合物特許、活性成分含有医薬組成物特許、医薬用途特許;
(2)漢方薬特許:漢方薬組成物特許、漢方薬抽出物特許、医薬用途特許;
(3)バイオ製品特許:活性成分の配列構造特許、医薬用途特許。
(注)中間体、代謝物、結晶形、製造方法、検査方法等の特許は適用対象外である。
2.後発医薬品申請者による関連医薬特許に対する宣言
後発医薬品申請者は、医薬品販売許可申請を提出する際に、プラットフォームに登録されている関連医薬特許に対して宣言I~IVを行う。
宣言I:登録されている特許情報無し;
宣言II:特許が失効/ライセンスあり;
宣言III:特許期間が切れるまでに販売しない;
宣言IV:特許無効に挑戦/特許の保護範囲に入らない主張
3.後発医薬品承認申請と宣言の公開と、先発医薬品承認保持者への通知
(1)後発医薬品承認申請から10営業日以内に、国家医薬品審査評価機関(以下、医薬品審査機関)は、プラットフォームで、後発医薬品承認申請の情報および宣言を公開する。
(2)後発医薬品承認申請から10営業日以内に、後発医薬品承認申請者は、宣言とその根拠となるものを、先発医薬品承認保持者に知らせなければならない。
4.宣言I、IまたはIIIの場合
国務院医薬品監督管理部門(以下、医薬品監督部門)は、医薬品審査機関が作成した技術審査評価に基づき、後発医薬品の販売を承認するかどうかを決定する。ただし、宣言IIIの場合は、販売承認する場合であっても、特許権の期間満了後に販売可能であることを示す。
5.化学医薬品(注1)の宣言IVの場合
(1)特許権者/利害関係人は、不服ある場合、後発医薬品承認申請の公開から45日以内に、人民法院(以下、裁判所)に訴訟を提起するか、国務院特許行政部門(以下、特許庁)に行政裁決(注2)を請求することができる。
(注1):漢方薬、バイオ製品は含まれない。
(注2)中国の特許庁は特許侵害事件で侵害の行政裁定をする権限を有している。
特許権者/利害関係人が訴訟提起/行政裁決請求した場合
(i)裁判所または特許庁は、訴訟の手続開始または行政裁決の請求を受理から15営業日以内に、医薬品審査機関および後発医薬品申請者に通知する。
(ii)通知書を受けた場合、医薬品監督部門は、後発医薬品の申請に対して9カ月の待機期間を設定する。ただし、医薬品審査機関における審査は継続される。
(iii)特許権者または利害関係者、後発医薬品申請者は、判決書または決定書を受けてから10営業日以内に、結果を医薬品審査機関に知らせる。
(iv)技術評価を通過した後発医薬品承認申請について、医薬品審査機関、医薬品監督部門は、確定判決、調停合意または行政裁決の結果に応じて、処理する。
特許権者/利害関係人が訴訟を提起/行政裁決を請求しない場合
医薬品監督部門は、技術審査評価の結論及び後発薬申請者が提出した宣言の状況に応じて、販売承認可否の決定を直接行う。
(2)パテント・チャレンジ(特許無効)に成功して販売承認を受けた最初の後発医薬品は12カ月の独占期間(同種の後発医薬品の承認がされない)が与えられる。
6.漢方薬、バイオ製品の宣言IVの場合
医薬品監督部門は、技術審査評価の結論及び後発薬申請者が提出した宣言に応じて、販売承認可否の決定を直接行う(つまり、9カ月の待機期間は設定されない)。
(裴紅梅、釜平双美)