判決:SRI International, Inc. v. Cisco Systems, Inc.
1.概要
CAFCは、2021年9月28日、SRI Int’l, Inc v. Cisco Sys, Inc.において、「故意侵害の判断基準」と、「損害賠償金増額の判断基準」とは異なると判断しました。
・故意侵害の判断基準:作為的かつ意図的に過ぎない侵害(no more than deliberate and intentional infringement)
・損害賠償金増額の判断基準:理不尽で悪質かつ悪意のある行為(the level of wanton, malicious, and bad-faith
behavior)
2.経緯
(1)前提
特許権者SRIがCiscoを特許侵害により訴えた侵害訴訟事件です。2012年5月8日にSRIからCiscoへ特許が通知されていました。
(2)第1次デラウェア地裁
陪審員評決:
(i)故意侵害を認定し、(ii)2,366万ドル(ロイヤルティ相当額)の損害賠償額を認定しました。
裁判所:損害賠償額を米国特許法第284条に基づき2倍に増額すると共に、米国特許法第285条に基づき原告の弁護士費用を認めました。
(3)第1次CAFC
CiscoはSRIから特許の通知を受ける前、すなわち2012年5月8日までSRIの特許の存在を知らず、2012年5月8日までの期間の侵害が故意侵害であることは証拠によって証明されていないと、CAFCは判断しました。
CAFCは、2012年5月8日までの侵害行為が実質的な証拠に裏付けられているかどうか判断するため、本件を地裁に差し戻しました。故意侵害の認定を前提とした損害賠償金の増額も取り消しました。
(4)第2次デラウェア地裁
地裁は、故意侵害の基準を「理不尽で悪質かつ悪意のある行為」までの行為を要求するものと解釈し、2012年5月8日以降の行為も故意侵害でないと判断しました。一方で、弁護士費用は維持しました。
3.関連規定
米国特許法第284条(仮訳)
原告に有利な評決が下されたときは,裁判所は,原告に対し,侵害を補償するのに十分な損害賠償を裁定するものとするが,当該賠償は如何なる場合も,侵害者が行った発明の使用に対する合理的ロイヤルティに裁判所が定める利息及び費用を加えたもの以下であってはならない。・・・裁判所は,損害賠償額を,評決又は査定された額の 3 倍まで増額することができる。・・・
米国特許法第285条(仮訳)
裁判所は,例外的事件においては,勝訴当事者に支払われる合理的な弁護士費用を裁定することができる。
4.損害賠償の増額に関連する最高裁判決「Halo Elec, Inc. v. Pulse Elec, Inc.」
・特許法第284条ではより高い証拠基準が選択されておらず、損害賠償の増額について「特許侵害訴訟は証拠の優越
(preponderance of evidence)基準により支配される」という原則の例外にはあたらない(=証拠基準は証拠の優越である)。
・損害賠償の増額は、典型的な侵害の場合に課されるものではなく、著しくひどい(egregious)侵害の制裁として規定されたもの。
5.第2次CAFC
CAFCの判断は以下のとおりです。
争点1:故意侵害か否か
⇒Ciscoの侵害行為が故意であるとする陪審員の評決は、2012年5月8日以降の侵害行為については実質的な証拠によって裏付けられている(2012年5月8日より前は証拠によって裏付けられていない)。
⇒故意侵害は、作為的かつ意図的な侵害に過ぎず、それ以上必要としない。
争点2:米国特許法284条に係る損害賠償額の増額の決定が、裁判所の裁量権の乱用に当たるか否か ⇒地裁の判断は裁量権の乱用に当たらない
⇒損害賠償の増額は必ずしも故意であることの認定から生じるものではない。
(故意であることは損害賠償額の増額の一要素ではある)
⇒侵害行為が、損害賠償額の増額を正当化するのに十分なほど悪質であるかどうかを判断する裁量権は地裁にある。
争点3:米国特許法285条に係る弁護士費用の裁定が、裁判所の裁量権の乱用に当たるか否か ⇒地裁の判断は裁量権の乱用に当たらない
<地裁の判断>
・Cisco社はいくつかの点で一線を越えた。
・Ciscoの訴訟戦略は、SRIと裁判所の両方に相当な量の仕事をもたらしたが、その仕事の多くは不必要に反復されたり、無関係だったり、軽薄だったりした。
・例えば、裁判直前まで19の無効論を維持していたが、最終的には2つのみ提出。
・Ciscoの全件が弱かったにもかかわらず、Ciscoはとにかく不合理な方法で積極的に訴訟を遂行した。
6.まとめ
・故意侵害の判断基準と、損害賠償額の増額の判断基準とは、異なると、CAFCは判断しました。
・故意侵害の認定が、必ずしも損害賠償金の増額を保証するものではないと、CAFCは判断しました。
・本判決によれば、侵害行為が、作為的、意図的であったとしても、理不尽で悪質かつ悪意がなければ、損害賠償額の増額にはなり得ないと考えられます。
7.CAFC HP:SRI International, Inc. v. Cisco Systems, Inc. 判決文本文
(川崎 茂雄)