マレーシアにおいて、特許法及び特許規則の改正が行われ、2022年3月18日に施行されました。以下、現在までに入手した情報を基に、法改正の概要をお知らせします。
1.優先権の回復
特許出願人は、優先権主張をしなかったことが「故意でないこと」を理由として、優先権の回復請求ができるようになりました。
優先権の回復請求ができる期限は下記の通りです。
(a)PCT国内移行以外の出願についての優先権の回復請求の期限は、優先権期間の満了から2ヵ月以内
(b)PCT国内移行についての優先権の回復請求の期限は、国内移行期限または早期処理申請から1ヶ月以内
2.配列表
明細書に配列表が含まれる場合、配列表の提出が必須となり、配列表の提出が出願日認定の要件となりました。
3.クレーム加算料
10個を超える場合のクレーム加算料が下記の通りとなりました。
11個~20個:1クレーム当たりRM20
21個~30個:1クレーム当たりRM30
31個~40個:1クレーム当たりRM40
41個~50個:1クレーム当たりRM50
4.居住者の定義
マレーシアの居住者にマレーシアで最初に出願することが要求されており、今回の改正により「居住者」が下記の通り規定されました。
(a)マレーシアに住んでいるマレーシア国民
(b)マレーシア国民でないが、下記に該当する者
・マレーシアの永久在留資格を取得しており、かつ通常マレーシアに在住している人
・マレーシアに入国し、滞在するために合法的に発行された有効なパスによりマレーシアに居住し、かつマレーシアに滞在している人
(c)外国企業以外で、マレーシアの法律に基づいて法人化、設立、または登録された団体
(d)マレーシアの法律に基づいて設立または登録された非法人団体
5.特許出願の公開
特許庁に係属している全ての特許出願(取り下げされていない出願)は、出願日または最先の優先日から18ヶ月後に官報により公開されるようになりました。また、公開により、出願人の詳細、出願の詳細、明細書の内容などの出願に関する情報または書類も、公衆の閲覧に利用可能となりました。さらに、早期公開の請求も可能となりました。
なお、この条文は、PCT国内移行には適用されません。
6.第三者情報提供
何人も、特許出願のクレームされた発明の特許性(新規性および/または進歩性のみ)についての情報提供をすることができるようになりました。
情報提供の提出期限は下記の通りです。
(a)PCT国内移行以外の出願について情報提供の提出期限は、出願の公開日から3ヵ月以内
(b)PCT国内移行について情報提供の提出期限は、国内移行日から3ヵ月以内
7.実体審査請求の猶予
通常の実体審査請求の猶予に関する条文が削除され、通常の実体審査請求の猶予ができなくなりました。
修正実体審査については、対応外国出願がまだ登録になっていないか、または、猶予の請求の時に修正実体審査が利用可能でなかったことのみに基づいて、猶予の請求が可能です。この場合、猶予のための庁料金の支払いに加え、係属中であって将来的に修正実体審査請求の基礎となる対応外国特許出願の詳細(国コード及び出願番号)をマレーシア特許庁へ知らせる必要があります。
8.情報および補足書類
旧法では、出願人は、通常の実体審査請求を提出するときに、対応外国出願の情報および補足書類を提供する必要がありましたが、法改正後では、対応外国出願についての情報および補足書類を提出しなくてもよくなりました。
9.否定的な審査報告に対する応答期限
旧法では、実体審査報告に対する応答の提出期限が、審査報告の送達日から2ヵ月以内でしたが、法改正後では、提出期限が審査報告の送達日から3ヶ月以内に延長されました。
10.分割出願
旧法では、分割出願の期限が最初の審査報告の送達日から3ヶ月以内であり、期限の延長ができましたが、法改正後では、分割出願の期限の延長ができなくなりました。
また、分割出願の前に最初の出願または直前の出願が既に特許が付与されているか、拒絶されているか、取り下げられたものとみなされているか、取り下げられているか、放棄されている場合、分割出願をすることができなくなりました。
なお、OAの応答期限は延長することができますが、分割出願の期限は延長されない点にご注意ください。
11.特許/実用新案の出願変更
旧法では、特許から実用新案(またはその逆)への変更請求の期限は、最初の審査報告の送達日から6ヶ月(延長可能)でありましたが、法改正後においては、最初の審査報告の送達日から3ヶ月に短縮され、延長ができなくなりました。
12.消滅した特許の回復
旧法では、更新料の未払いにより消滅した特許の回復期間は、公報での消滅通知の公開から2年間でありましたが、法改正後においては、公報での消滅通知の公開から12ヶ月のみに短縮されました。
13.特許付与後の訂正
旧法では、特許付与後の訂正は、誤記または明白な誤りの訂正のみに限定されていましたが、法改正後においては、誤記または明白な誤りの訂正に加えて、特許の再審査請求をすることによって、特許付与後に実質的な内容の訂正を行うことが可能になりました。
14.強制実施権
強制実施権許諾が得られる要件が下記の通り規定されました。
(a)国内市場で販売するための特許に基づいてマレーシアで生産された製品が、正当な理由なしに不当に高い価格で販売されている場合、又は
(b)マレーシアでの医薬品の生産、および公衆衛生問題に対処するための適格な輸入国へのそのような医薬品の輸出を目的とする場合
また、ライセンサーとライセンシーとの間で独占的ライセンス契約が締結されている場合でも、登録官が強制実施権を付与したことに起因する契約違反の訴訟からライセンサーを保護することが規定されました。
15.新しい委任状及び宣言書
2022年3月18日から、改正法で規定された新しいフォームの委任状及び宣言書を全ての新規出願に使用することになりました。なお、2022年3月18日より前に提出された委任状は引き続き有効ですが、2022年3月18日以後に提出する委任状は全て新しいフォームに従い調製された委任状を要求されます。
16.微生物の寄託
法改正により、マレーシアのブダペスト条約加盟に伴う法整備が為されました。マレーシアのブダペスト条約加盟の発効日は2022年6月30日であるため、微生物の寄託に関する規定は未だ施行されておらず、施行日は発効日以降、すなわち2022年6月30日以降になると予想されます。
(中谷 剣一)