2022年1月7日付のIPニュースにて、オーストラリア連邦裁判所は人工知能(AI)がオーストラリア特許出願の発明者になり得ると結論づけたとの内容をお知らせ致しましたが、その後の控訴審にて第一審の判断が覆され、オーストラリアにおいても、日本、米国、欧州等と同様に、AIは特許出願の発明者にはなれないことが判示されました。
判決:Commissioner of Patents v Thaler [2022] FCAFC 62
1.結論
2022年4月13日付けの判決において、オーストラリア連邦裁判所大法廷は、AIが発明者として認められるとした第一審判決を覆して、特許出願における「発明者」は自然人でなければならず、AIであるDABUSを特許出願の発明者とすることはできないと結論付けた。
2.背景
Thaler v Commissioner of Patents [2021] FCA 879 において、オーストラリア連邦裁判所は、AIがオーストラリア特許出願の発明者になり得ると結論付けていた。この結論は、オーストラリア特許法の下での「発明者」の通常の意味を、人だけに限定されないと解釈し、特許法には、AIを発明者として認めることを否定する規定は存在しないことや、AIを発明者として認めることが産業発展や新規技術の動機付けの観点から有益であると判断したこと等に基づくものであった。
3.連邦裁判所大法廷の判断
連邦裁判所大法廷は、オーストラリア特許法の第15条(下記参照)に規定される(a)~(d)の人(person、日本語訳中の「者」)について、「自然人」にのみ適用されるとした。また、オーストラリア高等裁判所の過去の判決(D’Arcy v Myriad Genetics Inc [2015] HCA 35 )等において、発明は人間の行動によってもたらされたものでなければならないものであることが判示されたことを引用した。連邦裁判所大法廷はこれらの法律解釈等に基づき、AIを特許出願の発明者とすることはできないと結論付けた。なお、出願人であるThaler博士は、この控訴審判決に対して、オーストラリア高裁に上訴している。
<オーストラリア特許法 第15条>
15 Who may be granted a patent?
(1) Subject to this Act, a patent for an invention may only be granted to a person who:
(a) is the inventor; or
(b) would, on the grant of a patent for the invention, be entitled to have the patent assigned to the person; or
(c) derives title to the invention from the inventor or a person mentioned in paragraph (b); or
(d) is the legal representative of a deceased person mentioned in paragraph (a), (b) or (c).
第15条 何人が特許を受けることができるか
(1)本法に従うことを条件として,次の者のみが発明に係わる特許を受けることができる。
(a)発明者,
(b)発明に係わる特許が付与された場合に,その特許を自己に譲渡させる権限を有する者,
(c)発明者又は(b)に記載した者からその発明に対する権限を取得する者,又は
(d)(a),(b)又は(c)に記載した者が死亡している場合は,その法定代理人
(参考)
オーストラリア連邦裁判所HP:Commissioner of Patents v Thaler [2022] FCAFC 62判決文
(岩木 郁子)