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【カナダ】特許適格性の審査手法を否定した判例紹介

IPニュース 2022.11.29
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判決1:Choueifaty v Canada (Attorney General), 2020 FC 837 (2020/8/21)(Choueifaty事件)
判決2:Benjamin Moore & Co v Canada (Attorney General), 2022 FC 923 (2022/6/17)(Benjamin Moore事件)

 カナダ知的財産局(CIPO)では、特許適格性について独特の審査手法が用いられ、コンピュータ関連発明などにおいて特許適格性の審査が厳しい傾向にあります。近年、こうしたCIPOの審査手法を否定する判例が連邦裁判所から2件続いており、以下ご紹介します。

1.Choueifaty事件とCIPOの審査手法について
1-1.従前の審査手法
 CIPOは、従来(2020年まで)、上記の審査手法として「課題解決アプローチ」を採用し、patentable subject matterを判断していた。課題解決アプローチは、
 1)特許出願に開示された課題を特定し、
 2)クレーム記載の中で、特定された課題の解決に必要な要素を、「重要な(essential)要素」と解釈するというもの。
 この課題解決アプローチでは、クレーム記載の中で「重要な要素」以外を無視した上で特許適格性が判断され得る問題があった。例えば、特徴部分がアルゴリズム等にあり汎用コンピュータで実行可能なコンピュータ関連発明において、審査官は、公知のコンピュータ要素を、課題解決に「必要ではない」との理由で無視でき、すると残りの要素(アルゴリズム等)は物理的でないため特許適格性がないとして拒絶するケースが多くあった。
1-2.Choueifaty事件
 こうしたCIPO従前の「課題解決アプローチ」は、Choueifaty事件(Choueifaty v Canada (Attorney General), 2020 FC 837)において、連邦裁判所により否定された。本事件は、CIPOがChoueifaty氏の特許出願を特許適格性の観点より拒絶した審査結果を、同氏が不服として訴えたもので、2020年8月21日に判決が下された。
 本判決において、連邦裁判所は、CIPOの審査を不適切として差し戻すにあたり、過去の最高裁判決で示された「合目的論的(purposive)」なクレーム解釈を適用すべきことを指摘した(Free World Trust v Électro Santé Inc, 2000 SCC 66及びWhirlpool Corp v Camco Inc, 2000 SCC 67)。合目的論的なクレーム解釈によると、発明の目的、発明者の意図を考慮せずにクレーム記載の要素をessentialでないと認定してはならず、クレーム記載は原則、全て重要な要素と解釈される。そして、Choueifaty氏の特許出願はCIPOの再審査を経て特許許可に到った。
1-3.現行の審査手法
 Choueifaty事件の判決を受けて、CIPOは2020年11月3日より、「課題解決アプローチ」を修正して現行の「実体発明(actual invention)アプローチ」を用いるようになった(Patentable Subject-Matter under the Patent Act – Canadian Intellectual Property Office)。
 この現行の審査手法では、特許適格性の判断が、以下のように行われる。
(1)合目的論的な解釈を用いて、クレームの「重要な要素」を特定する。
(2)特定した重要な要素に基づいて、クレームの「実体発明」を認定する。
(3)認定した実体発明が、物理的な存在等を有するか否かを判断する。
 当該アプローチによると、ステップ(1)で合目的論的解釈が採用されているものの、ステップ(2)で「実体発明」なる概念が導入され、実体発明が重要な要素を必ずしも全て含まなくてよいものとしてCIPOは(課題解決等の観点から)認定していた。このため、ステップ(1)の合目的論的解釈がステップ(2)以降に充分に反映されず、結局は従前の課題解決アプローチと同様に、コンピュータ関連発明等の特許適格性は厳しいものとなっていた。

2.Benjamin Moore事件
 上記のような状況下で、連邦裁判所は最近、2022年6月17日に判決を下したBenjamin Moore事件(Benjamin Moore & Co v Canada (Attorney General), 2022 FC 923)において、特許適格性の審査についての新たなフレームワークを打ち出した。
2-1.事件の詳細
 Benjamin Moore社は、自社出願2件(カナダ特許出願番号2695130(CA ‘130)および2695146(CA ‘146))を拒絶したカナダ司法長官の決定を不服として上訴していた。CA ‘130とCA ‘146は、「color harmony」と「color emotion」に基づいて色を選択するコンピュータ実装のシステム及び方法に関し、CIPOにより(現行手法の採用前に)従前手法「課題解決アプローチ」の下で審査され、特許適格性の観点より拒絶されたものであった。
 本件の審理において「課題解決アプローチ」が不適切なことは上記Choueifaty事件より争いがなかったが、連邦裁判所は、CIPO現行の「実体発明アプローチ」が、従前の課題解決アプローチの問題を引き続き含むことを実質的に認めたようであった。連邦裁判所は、本件をCIPOに差し戻して再び審査させる際の指針として、以下の3ステップのフレームワークを使用するよう指示した。
[新フレームワーク]
・ステップI. クレームを、合目的論的に解釈する。
・ステップII. 解釈されたクレーム全体として、単なる科学的原理や抽象的定理からなるのか、それとも科学的原理や抽象的定理を用いた実用的応用(practical application)を有するのかを問う。
・ステップIII. 解釈されたクレームが実用的応用を有する場合は、残りの審査事項(法的例外、並びに新規性及び進歩性など)を判断する。
 これに対して、カナダ司法長官は、連邦裁判所の判決を不服として、連邦控訴裁判所へ控訴する旨の通知を2022年9月14日に提出したところである。
2-2.新フレームワークについて
 上記の新フレームワークにおいて、ステップIは、Choueifaty事件と同様にクレーム記載を原則、全て重要な要素と解釈することを明確にするものと考えられ、ここまではCIPO現行の審査手法とも差がない(上記1-3.(1)参照)。一方で、以降のステップII及びIIIによるとCIPOの現行手法が否定されたと考えられる。
 具体的に、ステップIIでは、ステップIで解釈されたクレーム全体を、特許適格性の判断対象とすることが明示されている。また、ステップIIIでは、特許適格性の判断と、その他の事項の判断とを分離することが明示されている。CIPOの現行アプローチでは、「実体発明」の認定を介して、従来技術の課題に対する解決手段の考慮が、特許適格性の判断に入り込んでいたとの観点もあるのに対して、新フレームワークではこの点が排除されていると考えられる。
 又、ステップIIに言及されたpractical applicationは、カナダの過去の最高裁判例や高裁判例に基づいているとのこと。

3.所感
 上記の新フレームワークによると、ステップIIで「practical application」を満たせば特許適格性は認められる点から、現行のUS特許における特許適格性の判断基準に近付いたように感じられる(Alice/Mayoテスト、特にstep 2Aの
prong 2)。但し、同テストのstep 2B(所謂「significantly more」)のような考え方はなく、むしろ、カナダ新フレームワークではステップIIIより、課題解決のような進歩性で見るべき事項は、特許適格性の判断から積極的に分離する意図が見受けられる。
 一方、従来のCIPOの特許適格性の審査手法は、EP特許の進歩性判断におけるtechnical featureに通じる部分があるように思われる。つまり、EP特許ではコンピュータ関連発明につき、クレーム記載から、従来技術に対する相違点として特徴的なアルゴリズムの部分が抜き出された際、そのアルゴリズム部分がtechnical featureでないとの判断が(アルゴリズムで解決される課題がtechnicalでないことから)下されて拒絶に到るケースがあり、このケースと比較すると、違いは進歩性違反か適格性違反かという単なる条文形式的なもので、本質は酷似しているように思われる。

 以上のようなCIPOの審査手法に対して、連邦裁判所の新フレームワークはUS特許的な考え方にシフトしたもののようにも思われるが、それが控訴審においてどのように判断されるか、今後の動向が注目される。

(参考)カナダ連邦裁判所HP
Choueifaty v. Canada (Attorney General) 判決文
Benjamin Moore & Co. v. Canada (Attorney General) 判決文

(竹内 寛)

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