第三者による無断オプトアウトの申請又/取下への懸念に対するUPCの対応
・オプトアウトの申請又は取下は、UPC(Unified Patent Court, 統一特許裁判所)が提供するCMS(Case Management System, ケースマネジメントシステム)により行うことができるとされています。最初に試供されたCMSにはユーザネームとパスワードだけでログイン可能であったこともあり、当初は、第三者でも特許権者等の真の権利者に無断でオプトアウトの申請又は取下ができてしまうのではないかという指摘がされていました。
・2022年10月14日の時点では、CMS及びオプトアウトに関して、以下の変更が行われています。
(1)CMSのログイン時の認証の強化
2022年8月25日に、UPCより、CMSへログインには、強力な認証スキームを採用する旨、発表がありました。具体的には、ユーザネームとパスワードによるログインに代えて、電子ID認証(「eIDAS」準拠)が必要になると発表がありました。
CMSのログインについては2022年10月12日に最新版が公開されました。最新版では、CMSへのログインには、EUトラストサービスポータルに挙げられている信頼できるプロバイダから提供される電子ID証明書(electronic IDentification certificates)及び物理的なセキュアデバイス(スマートカード、トークン等)が必要になりました。また、CMSにアップロードする書類への電子署名には、同じく上記の信頼できるプロバイダから提供される適格電子署名(Qualified Electronic Signature)が必要になりました。
最新版の詳細は、UPCのウェブサイトの「News」の「How to authenticate to the CMS system」のページのPDFファイルから確認することができます。
(2)無断でされたオプトアウトの申請等の削除に関する規則の新設
・2022年7月8日に開催されたUPC管理委員会(UPC administrative committee)の第2回ミーティングにより、UPCの手続規則(Rules of Procedure of the UPC)の改正案が承認され、2022年9月1日から発効しました。
改正後のUPCの手続規則では、規則5Aが新設されました。規則5Aは、無断でされたオプトアウトの申請又は取下の登録を削除する手続きを規定しています。本来、第三者が、特許権者等の真の権利者に無断でオプトアウトの申請又は取下をした場合、このようなオプトアウトの申請又は取下はそれ自体が無効であり、効力を発するものではありませんでしたが、どのようにして是正、修正等をするのかについては定まっていませんでした。
規則5Aの新設により、無断でされたオプトアウトの申請又はオプトアウトの取下に対して、特許権者等の真の権利者が申請により登録の削除が可能であることが明文化されました。
改正後のUPCの手続規則の詳細は、UPCのウェブサイトの「Legal Documents」のページの「Rules of Procedure of the UPC」の項目に添付のPDFファイルから確認することができます。本回覧にも添付しますので、ご参照ください。
・上記(1)(2)の変更により、CMSへのログイン自体のハードルが上がり、更に、第三者がオプトアウトの申請又は取下をした場合でも、第三者の特定が容易になりました。加えて、UPCの手続規則の改正により、第三者により特許権者等の真の権利者に無断でオプトアウトの申請又は取下がされても、このような無断でされたオプトアウトの申請又は取下の登録の削除ができることが明確になりました。
これらにより、第三者が、自らが特定されるリスクを冒す必要があり、さらに無断で申請等したことが発覚するとその登録は削除され得る以上、特許権者等の真の権利者に無断でオプトアウトの申請又は取下をする可能性は大幅に低下するものと推測されます。
以上の変更を考慮しますと、第三者でも特許権者等の真の権利者に無断でオプトアウトの申請又は取下ができてしまうのではないかという点に起因する懸念は概ね払拭されたものと考えられます。
(北出 英敏)