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【米国】既判力についてのCAFC判決

IPニュース 2023.10.16
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判決:Inguran, LLC v. ABS Global, Inc., No. 22-1385 (Fed. Cir. July 5, 2023)

当事者
・特許権者:STGeneticsとしてビジネスを行っているInguran, LLC(以下、「ST」)
・被疑侵害者:ABS Global, Inc. およびその親会社(以下、「ABS」)

判決概要:
 第一次訴訟において、ABSの直接侵害を認める判断がなされ、損害賠償および実施料が決定された後、STがABSに対し、ABSの第三者へのライセンス行為が誘引侵害行為であるとして第三次訴訟を提起したことにつき、第三次訴訟の原審は第一次訴訟の既判力(res judicata)が及ぶとして、STの訴えを棄却したが、CAFCは訴因が異なるとして既判力は及ばないと判断し、原審に差し戻した。

第一次訴訟の概要:
・ABSが、STを反トラスト法違反で訴え、STがそれに対する応訴として、STが所有する特許(雄牛の精液をX染色体を持つ精子細胞とY染色体を持つ精子細胞に分離する精子選別技術に関する。この技術はいわゆる性別による産み分けを可能にする)を、ABSが侵害しているとして侵害訴訟を主張した。判決においては、ABSの直接侵害が認定され、陪審は、過去の侵害に対して750,000USドルの損害賠償金、および将来の実施に対し実施料を受け取ることをSTに認めた。
・陪審評決の後、実施料の支払いの範囲につき争いがあったため、地裁は、実施料の支払いは、ABS社により販売されるもの(精液が入った管)をカバーする旨述べた命令を発行した
・控訴審では、原審の判決が概ね支持されたが、あるクレームについて記載不備に関する審理に不備があったとして、原審に差し戻された。

第二次訴訟の概要:
・STが、ABSに対して別の特許侵害訴訟を提起した(第一次訴訟とは別の特許に関する)。第二次訴訟では、第一次訴訟の差し戻し審が併合された
・第二次訴訟の間に、STは、ABSが精子選別技術を第三者にライセンスし、第三者はABSから当該技術をどのように使用するかを学んで、彼ら自身で雌雄識別精液を販売していることを知った。なお、ABSによるライセンス行為は、第一次訴訟の間には計画はされていたが、開始されていなかった。
・第二次訴訟では、第一次訴訟の差し戻し審の結論として、追加の損賠賠償を認定するとともに、引き続き実施料をSTが受け取ることを認める判決が下された

第三次訴訟の概要:
・STが、ABSが第三者に精子識別装置を販売しライセンスしている行為が、第一次訴訟で問題となった特許の誘引侵害であるとして、ABSを訴える侵害訴訟を提起した。これに対し、ABSは、STの訴えは第一次訴訟の判決により排除されるべきであるとして、棄却の申し立てを行った
・第三次訴訟の原審は、第一次訴訟の判決は、ABSによりライセンスされた精子識別技術を用いて第三者が製造する製品を合理的にカバーするものであるとして(即ち、既判力が及ぶとして)、ABSの申し立てを認め、訴えを棄却した。

第三次訴訟における控訴審(CAFC)の概要:
・CAFCは、第三次訴訟に第一次訴訟の既判力は及ばないと判断し、原審に差し戻した。その理由は概ね以下のとおりである。
・第一次訴訟において、STは第三者による実施に関してABSの誘引侵害の主張を行っていない。
 - 直接侵害の主張と誘引侵害の主張は同一の取引事実(transactional facts)に基づくものではなく、STは第一審訴訟の訴状が提出されたときに誘引侵害の主張をできなかった。
 - STがABSによる直接侵害の主張を支持するのに必要とする証拠は、第三者による誘引された侵害の主張を維持するのに必要とされる証拠とは異なる。
被疑侵害行為および取引事実は第一次訴訟と第三次訴訟とでは異なっている。第一次訴訟にはABSが第三者の侵害を誘引したという申立てを支持する最小限の証拠が第一次訴訟の記録に存在するものの、ABSは自身の精子選択技術を商業的に立ち上げるに至っていなかった。
なお、侵害の申し立てが、先の訴訟において最終判決が言い渡された後に生じた行為に限られるのであれば、同じ取引事実が両方の訴訟において存在していたとしても、そのことは後の訴訟を排除しない。
 - 第一次訴訟のトライアル時に提起された誘引侵害の請求は、当事者間で直接侵害を争う旨の合意がなされ、誘引侵害の問題が陪審に提出されなかったこともあり、推測に基づくものであっただろう。
 - 原審による第一次訴訟の命令の解釈や明確化は、その命令を本質的に書き換えるものである。

検討
・当事者が同じであり、対象特許が同一であるものの、先の判決の既判力が及ばず、後から侵害訴訟を再度提訴することが認められた事例である。
・既判力により、後の訴訟の請求が排除されるかどうかは以下の3つの基準に従って判断される。
 1.第一および第二訴訟における当事者またはその関係者の同一性
 2. 訴因の同一性
 3. 第一訴訟における本案についての最終判決
・本件においては、先の訴訟中に取得した新しい権利(先の訴訟が進行中に生じたが、当該先の訴訟にて最初の訴状を提出した後に生じた請求権)は、先の訴訟により排除されないという米国における一般的なルールが適用されたと考えられる。

(参考)CAFC HP:Inguran, LLC v. ABS Global, Inc. 判決文

(玄番 佐奈恵)

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