2021年6月1日施行の専利法に対応する「中華人民共和国専利法実施細則」(以下、「本実施細則」と称す)および「専利審査指南」(以下、「本審査指南」と称す)が、2024年1月20日から施行されました。主な改正内容は、以下の通りです。
なお、適用対象は、本実施細則等と同日に公表された「改正後の専利法およびその実施細則の施行に係る審査業務対応に関する臨時的措置の公告」に規定されています。
以下、本ニュースにおいて、専利は、発明(日本の特許に対応)、実用新案および意匠を含むものであり;適用対象における出願日は、専利法第28条に規定の出願日(国務院専利行政部門が専利出願書類を受領した日(郵送の場合は郵送の消印日)(PCT出願の場合は中国移行日))です。
<本実施細則の主な改正内容>
1.部分意匠[実施細則30条~31条修正、専利法第2条第4項関連]
適用対象:出願日が2021年6月1日以降の意匠出願
・部分意匠を出願する場合には、製品全体の図面を提出するとともに、保護を求める部分の内容を破線と実線の組み合わせまたは他の方法で示さなければならない。[30条]
・保護を求める部分は、製品全体の図面において破線と実線の組み合わせで示されている場合を除き、「簡単な説明」を提出しなければならない。[31条]
2.初歩的審査[実施細則50条修正、専利法34条、40条関連]
適用対象:出願日が2024年1月20日以降の専利出願
・実用新案の初歩的審査要件(専利法第二十二条に関する要件)に「進歩性を明らかに満たしていないかを審査」が追加(従前、審査の対象項目は、新規性および実用性のみ)
・意匠の初歩的審査要件に明らかな区別が追加
3.遅延審査請求[実施細則56条修正、専利法第35条関連]
適用対象:出願日が2024年1月20日以降の専利出願
・「出願人は専利出願について遅延審査請求できる」が追加
(本審査指南における規定)
1)遅延審査請求できる対象に実用新案が追加(従前は、発明および意匠のみが対象)
実用新案における遅延審査は、出願と同時に請求する;遅延期間は遅延審査請求の有効日から一年
2)「遅延審査請求は取消可能」が追加*
*施行日前に中国に出願(PCT出願の場合は中国に移行)し、施行日後に遅延請求した場合について、遅延審査請求が取消可能という明確な規定はないが、複数の中国代理人により、取消可能と考えられるとの情報を得ている。
4.専利評価報告書[実施細則62条~63条修正、専利法66条第2項関連]
適用対象:出願日が2024年1月20日以降の出願から適用され、意匠専利権又は実用新案専利権を対象とする
・専利評価報告書を請求できる者に被疑侵害者が追加(従前は専利権者および利害関係者のみ請求可能)[62条]
・出願人は専利権付与手続時に請求可能[62条]
・出願人が専利権付与手続時に請求の場合、国務院専利行政部門は登録公告日から2ケ月以内に専利権評価報告を発行しなければならない(通常は請求受理から2ケ月以内)[63条]
5.専利権付与過程における不合理な遅延に対する期間の補償[実施細則77条~79条、84条新設、専利法第42条第二項関連]
適用対象:専利権付与公告日が2021年6月1日以降の発明専利;2024年1月20日の前に専利権が満了した専利については、補償条件を満たす場合補償を与える
・補償請求の提出期限は、専利権付与公告日から3カ月以内(印紙代については、まだ公表されていない)[77条]
・補償期間の計算方法および合理的な遅延の明確化[78条]
1)補償期間は、日数で計算
2)補償期間の日数=「発明専利の出願日※から4年を経過し、かつ審査請求日から3年を経過した日と専利権付与公告日との間の日数」-「合理的な遅延の日数」-「出願人による不合理的な遅延の日数」
※PCT出願から中国国内移行した出願の場合は中国国内段階への移行日、分割出願の場合は分割出願の提出日(本審査指南において規定)
3)合理的な遅延:
(一)復審手続きに起因する遅延(復審段階において、請求項の補正で専利権が付与された場合)
(二)専利権紛争、専利出願権・専利権の保全による関連手続きの中断に起因する遅延
※同一の出願人が同日中に同様の発明創造について発明と実用新案を同時に出願し、この発明について専利権が付与された場合、該専利権の期間については、期間の補償が適用されない
・出願人による不合理的な遅延の明確化[79条]
(一)専利局が発行した通知書に対して期限内に応答していない場合
(二)遅延審査を請求している場合
(三)優先権主張の出願において、明細書や請求の範囲の一部が欠落し、その欠落部分を追加提出している場合
6.医薬専利期間の補償[実施細則80条~83条、84条新設、専利法第42条第三項関連]
適用対象:専利権者による補償請求日が2021年6月1日以降の発明専利;2024年1月20日の前に専利権が満了した専利については、補償条件を満たす場合補償を与える
・医薬専利には、新薬製品専利、製造方法専利および医薬用途専利が含まれる。[80条]
・医薬専利期間の補償の提出期限および適用基準の明確化[81条]
提出期限は、医薬販売許可日から3カ月以内(印紙代については、まだ公表されていない)
適用基準:
新薬が複数の専利に含まれる場合、補償請求は一つの専利権に対してのみ可能
専利が複数の新薬に係る場合、補償請求は一つの新薬に対してのみ可能
専利が有効期間内であり、新薬専利期間の補償を受けたことがない
・補償期間の計算方法の明確化[82条]
補償期間の日数=「出願日と専利権付与公告日との間の日数」-5年
(ただし、5年を超えず、新薬発売承認後の専利権の合計存続期間は14年を超えない)
・補償期間における専利の保護範囲の明確化:当該新薬および承認された適応症関連技術に限られる。[83条]
7.専利開放許諾制度[実施細則85条~88条新設]
適用対象:専利権者による開放許諾宣言日が2021年6月1日以降の専利
・従前の「専利実施の強制許諾」から「専利実施の特別許諾」に名称変更
・開放許諾宣言は専利権付与公表後可能
開放許諾宣言には、専利番号、専利権者の氏名/名称、専利許諾使用料の支払い方式および基準、専利許諾期間を明記(商業的宣伝用語の使用不可)[85条]
・開放許諾の適用不可の場合の明確化[86条]
・専利権者または被許諾者は許諾成立を証明する書面を提出すべき[87条]
・虚偽存在不可、開放許諾実施期間中に年金減免不可[88条]
8.工業意匠の国際登録に関するハーグ協定[実施細則136条~144条]
適用対象:出願日が2022年5月5日以降の意匠国際登録出願
・国際登録日が中国における出願日[137条]
・意匠国際出願が国際事務局に公開された後、専利局はそれに対して審査し、審査結果を国際事務局に通知する[138条]
・優先権書類の提出期限:意匠国際出願公開日から3カ月以内[139条]
・新規性喪失に係る書類提出期限:意匠国際出願公開日から2カ月以内[140条]
・分割出願の提出期限:意匠国際出願公開日から2カ月以内[141条]
・意匠国際出願における「設計点を含む明細書」を実施細則31に記載の「簡単な説明」とみなす[142条]
・意匠国際出願について専利局が審査して拒絶理由が見つからなかった場合登録[143条]
・国際事務局で権利変更手続き後専利局に関連書類の提出が必要[144条]
9.優先権の回復または訂正の請求[実施細則36条~37条]
適用対象:回復または訂正の請求日が2024年1月20日以降の発明出願または実用新案出願
・優先権の回復の請求期限:正当な理由がある場合、期限満了日から2ヶ月以内[36条]
・優先権の主張の追加または訂正の請求期限:優先権日から16ケ月以内、または出願日から4ヶ月以内[37条]
10.PCT出願(発明と実用新案)の国内移行段階における出願人名義変更手続きの簡略化[実施細則121条修正]
適用対象:移行日が2024年1月20日以降のPCT出願(発明と実用新案)
・国際段階において既に出願人名義変更が行われている場合、
従前の「変更後の出願人が出願権を有することを証明する書類の提出」から「必要に応じて変更後の出願人が出願権を有することを証明する書類の提出」に変更
11.PCT出願の中国国内移行後の優先権の回復請求[実施細則128条]
適用対象:移行日から2カ月満了日が2024年1月20日以降のPCT出願
・正当な理由がある場合、移行日から2ヶ月以内に優先権の回復の請求が可能
12.電子出願における庁発送書類の送達日[実施細則4条改正]
適用対象:2024年1月20日からの庁発送書類
・従前の「発送日+15日」から「電子システムにアクセスした日付」に変更
13.前置審査関連条文[実施細則62条]の削除
適用対象:出願日が2024年1月20日以降の専利出願
・「復審請求書は元の審査部門に回して審査」に関する条文が削除
前置審査は行われるが、元の審査官ではなく別の審査官が行うこともある。
(参考)
ジェトロHP:国務院、専利法実施細則(2024年1月20日施行)を公表
(裴 紅梅)