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【米国】最高裁判決を踏まえた実施可能要件に関するガイドラインの公表について

IPニュース 2024.07.04
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 USPTOは、2023年5月のAmgen v. Sanofi事件の最高裁判決(下記関連判決1)(以下、「Amgen最高裁判決」という)を踏まえた、実施可能性の評価に関する審査官向けガイドライン(以下、「本ガイドライン」という)を公表しました。

 本ガイドラインは、2024年1月10日から有効となっています。公表されたガイドラインの詳細は、以下のリンクより参照できます。
 Federal Register : Guidelines for Assessing Enablement in Utility Applications and Patents in View of the Supreme Court Decision in Amgen Inc. et al. v. Sanofi et al. 

 公表されたガイドラインは、実施可能要件に関するこれまでの審査実務に大きな変更を加えることを意図したものではなく、「クレームされた発明の全範囲を実施するために必要となる実験の負担が合理的なものかどうか」を判断する際の評価要素として、引き続き「Wandsファクター」(註)を適用することを再確認するものです。即ち、本ガイドラインは、Amgen最高裁判決によって新たな基準を導入するものではなく、これまでのWandsファクターに基づく判断方法がこれからも有効であることを、USPTOの職員および一般に周知するものであります。
 Amgen最高裁判決はバイオテクノロジー分野に関するものですが、公表されたガイドラインでは、技術分野に関係なくWandsファクターを適用し、Amgen v. Sanofi判決の法理論に基づき実施可能要件を判断することで一貫性を保つことが明確化されています。
 本ガイドラインのガイダンスは、いずれ特許審査便覧(MPEP)にも組み込まれる予定とのことです。

(註) Wandsファクター
 1988年のIn re Wands事件(In re Wands, 858 F.2d 731 (Fed. Cir. 1988))において連邦巡回区控訴裁判所(以下、「CAFC」)が提示した、「クレームされた発明の全範囲を実施するために必要となる実験の負担が合理的なものか」を判断するのに用いられる評価要素であり、以下の8つの要素が含まれる:
(A)クレームの広さ、(B)発明の性質、(C)先行技術の状況、(D)当業者のレベル、(E)当該技術分野における予測可能性のレベル、(F)発明者から提供されたガイダンスの量、(G)実施例の存在、(H)開示内容に基づいて発明を製造し使用するために必要な実験の量。

 本ガイドラインの主な内容は以下のとおりです。
・1988年のIn re Wands事件においてCAFCは、クレームされた発明の全範囲を実施するために必要となる実験の負担が合理的なものかを判断する際の評価要素として、8つの要素(いわゆる「Wandsファクター」)を提示した。

・Amgen Inc. v. Sanofi事件で問題となった特許クレームは、(1)PCSK9タンパク質の特定のアミノ酸残基に結合し、(2)PCSK9とLDLコレステロール受容体との結合をブロックする、という機能によって特定された抗体に関する。

・Amgen Inc. v. Sanofi事件では、機能によって特定された、数百万の抗体を潜在的に包含する広範な属(genus)クレームが実施可能要件を満たすかどうかが争われ、CAFCは、クレームされた発明の全範囲を実施するために必要となる実験の負担が合理的か否かをWandsファクターに基づいて評価し、実施可能要件を満たさないと判断した。

・最高裁判所は、Amgen社の特許クレームは、明細書で示された26の例示的な抗体よりもはるかに広範囲に及び、合理的な量の実験を考慮しても、クレームした内容の全てを実施することはできず、実施可能要件を満たさないと判断した。最高裁判決はWandsファクターを明確に取り上げてはいないが、「明細書はクレームされた発明を製造し使用するために合理的な量の実験を要求することができるが、その合理性は発明の性質と基礎となる技術に依存する」ことを強調しており、Wandsファクターに基づくCAFCの無効判定を支持した。

・Wandsファクターは、当業者がクレームされた発明を実施するために合理的な量以上の実験に従事しなければならないかどうかを判断する際の重要な評価要素となるものであり、Amgen事件後に実施可能要件が争点となったいくつかのCAFC判決(下記関連判決2~4)においても、適用または少なくとも議論されている。

・結論として、Amgen最高裁判決やその後のCAFC判決での判断と同様に、技術分野に関わらず、特許クレームが有効であるかどうかを評価する際、USPTOの職員は、クレームされた発明の全範囲を実施するために必要となる実験の負担が合理的であるかどうかを確認するために、引き続きWandsファクターを適用する。

<関連判決>
1) Amgen v. Sanofi 最高裁判決判決文
2) In re Starrett 判決文
3) Medytox, Inc. v. Galderma S.A. 判決文
4) Baxalta Inc. v. Genentech, Inc.判決文

実務上の留意点:
 Amgen最高裁判決は、実施可能要件をより厳格に適用することを意味するものではありませんが、化学やバイオテクノロジーのような、物質の構造と機能との相関関係を予測することが難しい技術分野において、機能的表現による物質クレームの権利化は、実施可能要件の観点からより困難な方向に影響すると考えられます。この点を踏まえて、明細書には、できるだけ多くの実施形態や具体例(実施例)を記載することはもちろん、クレームにおいても配列や構造等による特定事項を設けておくことなどが、より重要になると考えられます。

(知財情報委員会)

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