1.概要
人工ニューラルネットワーク(ANN)の特許適格性に関するUKIPO vs Emotional Perception AI事件の英国控訴院の判決が、2024年7月19日に発表されました。
英国においてコンピュータプログラム自体は特許適格性から除外されます。本事件では、ANNは従来型のコンピュータプログラムではなく全く異なるものであると主張されていましたが、この主張は判決で否定され、以下の見解が示されました。
・ANN(のパラメータ)もコンピュータのプログラムであり、ゆえに除外の範囲内である。
・ただし、プログラムが技術的貢献をもたらすなら、特許適格性から除外されない場合がある。
2.経緯
本事件は、ANNが、1977年特許法1条(2)(c)の発明として認められない「コンピュータプログラム」に含まれるかどうかという問題を扱っています。英国知的財産庁(UKIPO)が以前に発表した審査ガイドラインによれば、ANNは固定ハードウェアに実装されない限り、コンピュータプログラムと見なされ、これは、ANN発明が、コンピュータ内部又は外部において技術的効果を実証できる場合のみに権利化できるということを意味していました。
しかし、英国高裁は、2023年11月21日、(学習により動作する)ANNはコンピュータプログラム自体ではなく、特許適格性の除外対象にならないと結論づける判決を発表しました。
英国高裁の判決を受け、UKIPOは、2023年11月29日、特許審査官は「コンピュータプログラム」除外の下でANNを含む発明の特許適格性を否定すべきではないとする法定指針を発表し、AI発明に関する審査ガイドラインを一時停止していました。
3.実務への影響・今後
控訴院判決では、特許適格性に関してANNは特別ではないと判断され、従来通り技術的効果がANNその他コンピュータ利用発明の特許適格性に貢献すると述べられています。
UKIPOは、ANNを特別扱いするよう審査官に指示している現在のガイドラインを撤回すると思われます。本件の特許権者は最高法院に上告を求めています。
(参考)
英国控訴院判決文全文
(中村 拓)