地裁判決:HOSPIRA UK LIMITED v. GENENTECH INC. [2014] EWHC 3857 (Pat)
1 要点
UKでは、プロダクト・バイ・プロセス(PBP)クレームについて新規性判断の場面では、EPOと同様にクレームに記載された方法の構成が新規であることのみをもって新規性ありとはされない。本判決では、侵害判断の場面において、クレームに記載された方法によって得られた(obtained by)物に限定解釈された(製法限定説)。但し、”obtainable by”を用いて特定した場合には、所定の要件のもと、クレームに記載の方法以外の方法によって得られる物についても権利が及ぶ場合がある旨判示された。
2 事案の概要
(1)背景
EPOでは、PBPクレーム(Substance X obtained/obtainable by process Y)は、obtained(文言上狭い範囲)かobtainable(文言上広い範囲)かに依らず、原則Xそのものとして解釈され、方法の構成YはXに新たな特徴を与える限りにおいて新規性の判断に考慮される。
(2)争点
本地裁判決の争点は、UKにおけるPBPクレームの侵害判断において、物同一説又は製法限定説のいずれでクレーム解釈がされるかである。
(3)裁判所の判断
本判決では、PBPクレームの新規性判断に関する裁判例(Kirin-Amgen Inc v Hoechst Marion Roussel [2004] UKHL 46)を参照して、UKとEPOのPBPクレームに関して以下のように分析された:
i) 公知の物と同一の物を製造する新規な方法はその物に新規性を与えることはできない。方法によって得られる(obtained)又は得られうる(obtainable)物を新規にするためには、既知の物に比べて、その物がその方法により与えられる新規な特性を有さなければならない。
ii) このルールは新規性の法律論である。クレーム解釈の原理ではない。このルールは、事実上”obtained by”を”obtainable by”として取り扱っているが、クレーム解釈の問題としては、方法「により得られた(obtained by)」物のクレームは文字通りの意味である。これが、侵害及び開示十分性の面におけるクレームの範囲であろう。
iii) 通常、特許は発明者自身が選択する用語によりドラフトされるが、EPOは他に代替がない場合を除き、明らかなPBP用語を認めない。他に代替がないとは、問題の物の特定の特徴を規定するための他の方法がないことを意味する。
この判断基準に従い、本件(凍結乾燥によって得られうる(obtainable by)ではなく、得られた(obtained by)物のクレームである)では、クレームは「凍結乾燥混合物」に関するものであって、凍結乾燥によって実際に製造された物に限定されるとされた。また、凍結乾燥されていない空気乾燥物質により、クレームは自明かもしれないが、クレームを侵害するものではないとされた。
一方、”obtainable by”で規定されるクレームの侵害とされるためには、異なる方法が用いられた場合、クレームの方法の不可避的な結果となるありとあらゆる特徴を、当該異なる方法によって得られた物が有していなければならず、そのような特性をすべて有さなければ、その方法によって得られうるものではないとされた。
3 分析
今回のイギリスの地裁判決によれば、PBPクレームについて、審査の場面では製法に限定されず、「物」そのものとして特許性が判断されるのに対し、侵害判断の場面ではクレームに記載される製法によって得られた物に限定解釈された点で、米国におけるクレーム解釈と類似するものとなったと考えられる。
一方、ドイツや、先般の最高裁判決で示される日本では、審査の場面と侵害判断の場面の両方において、いわゆる物同一説が採用されており、各国で解釈が異なっている。
Hospira UK Ltd vs Genentech Inc EWHC 3857判決文
以上