【イギリス】均等侵害に関する英最高裁判決の紹介
先月、イギリス最高裁において、医薬用途発明に関する特許権の均等侵害が認められました(Actavis v Eli Lilly [2017] UKSC 48)。
これまでイギリスでは、特許権侵害においてクレームを目的論的に解釈し、均等侵害の概念ではなく、クレームの文言解釈の範囲で侵害判断がされてきましたが、今回の最高裁判決では、従来とは異なり、クレーム文言と異なる部分がイ号に存在する場合における侵害成否を均等侵害の法理に基づき判断し、新たな基準を示しました。また、判決ではクレーム解釈において出願経過を参酌すべき場合についても触れられています。
具体的には、アクタビス・ユー・ケー・リミテッド社(以下、「アクタビス社」という)が製造するペメトレキセド化合物(ペメトレキセドの遊離酸、2カリウム塩又は2トロメタミン塩)を含む癌治療剤が、イーライ・リリー社の有する、有効成分ペメトレキセド2ナトリウム塩を用いた組合せ療法に係る特許権の侵害に該当するかが争われ、一審、二審とも直接侵害が否定され、上告された最高裁において均等侵害の成否が争点となりました。
最高裁は、均等侵害の要件として、日本におけるいわゆる置換可能性、置換容易性及び意識的除外に類似した三つの要件aを示して、アクタビス社の均等侵害を認めました。
また、イーライ・リリー社は、本件特許の審査過程において、出願当初、上位概念で示されていた「葉酸代謝拮抗薬」を「ペメトレキセド化合物」とする補正をしたところ、開示要件違反及び新規事項追加を理由に認められなかったため、最終的に明細書の実施例に記載された「ペメトレキセド2ナトリウム塩」に減縮補正していました。アクタビス社は、このような出願経過を参酌すれば、クレームの「ペメトレキセド2ナトリウム塩」は他の塩を除外するものであると主張しましたが、最高裁は、出願経過は特定の場合bに限って参酌されるべきとして、アクタビス社の主張を認めませんでした。
本判決は、イギリスでも均等侵害が認められた点で意義があります。また、出願経過の参酌についても一定の基準が示されており、今後の権利解釈に影響を及ぼすものと考えられます。
a【今回の最高裁判決で示された基準(均等)】(判決文段落66:仮訳;括弧内は訳者註)
① (クレーム文言と)異なる部分(を有する製品)が特許クレームの文言範囲内でなくても、当該異なる部分がその発明と実質的に同じ方法で実質的に同じ結果、すなわち当該特許の発明概念を達成するか
② 当業者が当該特許をその優先日に読んでいたが、異なる部分が当該発明と実質的に同じ結果を達成することを知っていた場合において、異なる部分が当該発明と実質的に同じ方法でその結果を達成することが当業者にとって自明であったであろうか
③ そうであっても、クレームの文言通りの意味に厳密に解釈することが当該発明に不可欠な要件であるとの意図が特許権者にあったと当該特許を読んだ当業者が結論したであろうか
b【今回の最高裁判決で示された基準(出願経過参酌)】(判決文段落88:仮訳)
出願経過の参酌は以下の場合に限定すべき:
(i) 特許クレーム及び明細書に限定して解釈したならば争点事項がまさに不明確となるが、包袋内容を参酌すれば当該事項が一義的に明確となる場合、又は
(ii) 包袋内容を無視することが公益に反することとなる場合
以上
(文責:呉 英燦)